振り出しに戻る。
私の駒がひゅんと空を飛んでスタートに降り立った。この双六にタイトルを付けるなら『セブルスとの親密度』だろうか。
「えっ……セブルス、だよね?」
「あぁ」
「リリー、だよ?」
「分かっている」
バッタリとロンドンで再会し、声を掛けたのが1分前。私を捉え心当たりのある表情をして、彼は眉をピクリと跳ねさせた。だというのに、その口から発した言葉は固い壁を感じさせるもの。
「セブルス、冷たくない?ハイタッチして頬に挨拶のキスしてハグするくらいの仲だったよね、私たち?」
「な、そのようなことは一度たりともしていない!」
焦った彼の表情が少し昔に戻り、ホッと肩の力を抜いた。心の中で、双六の駒がグンと大きく進む。悔しげに頬を引き吊らせ短く息を吐いたセブルスが、真っ直ぐに私を見つめた。
「君の人生は描いた通りに順調らしい、と風の噂で聞いた」
「利用できるものをすべて利用しただけ」
「語った中でまだ達成されていないのは、玉の輿だけか?」
「それはもういいことにした。お金には困ってないから」
「魔法薬の開発で一発当てるとは運の良い奴だ」
「努力家と言って頂戴」
お互い思い出すのは、大鍋を挟んで議論し合った懐かしい日々。
「今の私と関わっても君に利はないぞ」
「昔だってあなたは何も持っていなかった。ただ少し魔法薬が得意で、闇の魔術が好きだっただけ」
セブルスは言い返すこともできずに、開いた口をそのまま閉じた。
何も持たないただのセブルスが、私には特別だった。彼はただ、そこにいるだけで良かった。私のそばに。ありがちな青春を飾る恋心。美しい思い出が、心に甦っていく。誰かを思って熱くなったのは、後にも先にもこの一度だけ。
「また会えて嬉しい。元気そうで良かった」
「君もな。心配はしていなかったが、想像の数倍は上手く生きているらしい」
「私は要領がいいの」
「婚期だけは逃したくせに」
「そっちこそ」
「もし10年先もこの状態だったなら、お互いで妥協しておくか?お節介な周囲を黙らせるために」
ふっと溢れた正体不明のセブルスの笑み。リリーは心臓が一瞬止まったような気がした。
一回休み。
Special Thanks
you
(2019.4.4)