爽やかな風がさらりと髪を揺らす。
「何ですか?」
「私ではない。風だ」
「なぁんだ、てっきり教授も構ってほしいんだと思いました」
膝に乗せたハリネズミへ餌を差し出し、リリーが忍び笑いをした。
「いつまで待たせる気だ?」
「あともう少し」
日毎に増す陽射しへ口角を下げ、スネイプは杖を振って日陰を作り出す。
「ありがとうございます」
「どうやらまだ時間がかかるようだからな」
風が通る度に踊るリリーの髪へ、小さな葉が引っかかった。スネイプは取ってやろうと指を伸ばし、しかし取らずに引っ込める。代わりに取り出した杖を彼女の髪へと向けた。
「何ですか?」
「私ではない。杖だ」
「杖……ということはつまりあなたが何かした、と」
「ただの暇潰しだ。君の困るようなことは何も」
葉は白い花へと変わり、彼女の髪に咲いていた。
青々とした空間が二人の遥か上空で広がる。顔を上げ遠くに浮かぶ雲を眺めて、リリーが微笑んだ。
「夏が来ますね」
「薬草が豊富になる」
「一部の魔法生物が繁殖期に入ります」
お互い異なる夏へ思いを馳せて、二人に等しく訪れる夏を待つ。
夏はほら、すぐそこ。
Special Thanks
r.a様
(2019.3.27)