君の子守りには、飽き飽きだ


「君の子守りには、飽き飽きだ」

「飽きたならどうぞお帰りください。頼んだ覚えはありません」

「君に覚えがなくとも、私は頼まれたからここにいる。君のお父上にな」

「あーあ、ダイアゴン横丁で買い物したかったな」

「あそこは混む。新学期の準備ならここで十分だ」


マグルも数多く住むこの街を我が物顔で魔女が歩く。この買い出しも、二人にとっては七回目。一見廃れた雑貨屋も、彼女は勝手知ったる様子で扉を開けた。店を知っていれば、なんてことはないのだと。


「これほしい!」

「止めておけ、偽物だ」

「わ、こんなのもあるんだ!」

「高い。他で買えば八割の値段で手に入る」

「この買い物、全っ然楽しくない!」


眉間にシワを寄せた男に言わせれば「ガラクタ」を棚へと戻し、リリーが不貞腐れて必要最低限の文具を手に店主の元へと向かった。その後を飽きたはずの男が悠々と追う。

何軒店を回っても、彼が「子守り」を放棄することはなかった。


「あっ」


通りの先に目を輝かせ、荷物を抱えてリリーが走る。


「スネイプ先生ー!ちょっと休憩しましょー!」


その表情は楽しいことを見つけた煌めきに他ならず、その弾む声でスネイプを誘う。楽しみは共有すべきであると何ら疑うことなく手招きをしていた。


「先月できた喫茶店らしいです!」


そう言って微笑むリリーを夏の太陽が焦がす。彼女の輪郭が光に溶ける様はまるで太陽そのもののよう。スネイプは自身の錯覚に表情を曇らせた。それでも足は彼女へ向かう。

束の間、通りが静寂を作り出す。疎らにいた通行人が姿を消して、二人の間を遮るものがなくなった。光を直接浴びてしまえば、影は跡形もなく消えてしまうというのに。消えてしまうからこそ、スネイプは駆け出したい衝動に駆られた。


「紅茶一杯だけだ。お父上が君の帰りを待っている」

「ケーキも!」

「……良かろう」


彼女の買い物が終われば、彼は子守りから解放される。それでもこの無垢な太陽を、彼はいつまでも

見守ってしまう。

Special Thanks
you
(2019.3.25)


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