喧嘩なんてしたくない。
なのに売り言葉に買い言葉。あなたに押し売りされれば、私は買わざるを得なくなる。ふつふつと沸き始める大鍋のように私たちの口論は高まっていった。
「もういい。こんな無意味な口論はこれで終わり」
「あぁ、我々の関係もこれで終わりだ」
終焉は、本棚に詰め込まれた数えきれない古書が聞いていた。たくさんの思い出も、このスピナーズ・エンドで築いてきたはずなのに。今はただ、感情の濁流に呑み込まれ、悲しみだけが私に浮かぶ。
「荷物を纏めてすぐに出ていけ」
セブルスは私に背を向けて、そばの肘掛け椅子に居座った。暖炉へと向いた彼の目に、再び私が映る日は、来ない。丸まった愛しい背にさよならを告げた。
隠し扉から階段へ出て、上がらずその場に立ち竦む。ここをあと一往復してしまえば終わり。この場所に積み重ねてきた荷物は多くない。呪文一つで済んでしまう。
扉を背に、ズルズルとしゃがみ込んだ。
「……ま……、……ない……」
扉越しに声が漏れ聞こえる。身体を捻り、耳を扉へと当てた。
「……すまない、リリー……すべては私の……」
二人で過ごした、最後の8月31日。とうとう彼が校長としてホグワーツに戻る日がやって来た。すべてを捨てて、すべてを背負う。
これっきりにはしたくない。けれどこれっきりにしなくては。彼のために。私のために。犠牲となったすべてのために。
「どうか、ご無事で……」
明日、ここに思い出を置いたまま、
あなたはきっと、あっさりいなくなる。
Special Thanks
you
(2019.3.19)