フフフ・・・


「フフフ・・・」

抑えきれない歓喜がリリーの口から漏れ出した。つり上がる口角を手で覆い、陰鬱な夜の街を駆けていく。看板の出ていない店の前に立つと、躊躇うことなく扉を開けた。


「やっぱりここにいた」


誰にでもなく呟いて、街に似合いな寂れたパブの奥へと進む。時折中央の暖炉が緑に燃えて、煤をまぶした辛気臭い人間を吐き出していた。

そして彼女が肩を叩いた人物もまた、草臥れ色落ちした元は黒だったであろうローブに、べっとりと伸ばしっぱなしの黒髪。振り返った若い男のその瞳までもが黒く、表情は冬空よりも暗かった。


「リリーか。こんな店まで追いかけてきて、何の用だ?」

「良い情報よ」

「ほう?闇祓いの数でも減らせたか?」


ハイテーブルに肘を付き肩を寄せる彼女を目で追って、スネイプがショットグラスを呷る。


「あのお方がポッターを選んだ」


ゴクリ、と大袈裟にスネイプの喉が上下した。


「選んだ?」

「きっとすぐあなたにも召集がかかる。ポッターのこと、嫌いだったでしょう?穢れた血との子供諸共、亡き者にするチャンスよ!」


興奮した様子の彼女とは裏腹に、スネイプは口を固く閉ざしてしまった。彼女が何を言ってもお構いなし。空のグラスを持ち上げてはテーブルへと置き直していた。


「セブルス?」


彼の瞳は黒く濁り、そばで気遣う人間さえも映してはいなかった。そしてリリーの目の前で、暖炉へと飛び込んでいく。引き止めるべく伸ばされた彼女の右手が、行き場をなくし力を失った。




それから数日して、リリーの耳にある噂が飛び込んできた。


『スネイプが穢れた血を欲しがったらしい』


彼女にはリリー・ポッターのことだとすぐに察しが付いた。そして学生時代の彼が脳裏に溢れだす。

あぁ、そうか、そうだったのか。

私はずっとセブルスを見ていたのに。いつだって彼の見ているものを見ようとはしなかった。


「良い情報?真逆だった!」


彼にとっては。

あのとき彼は、身も心も引き裂かれそうな痛みに耐えていたに違いない。数年がかりの初恋へ突如もたらされた結末。自分の鈍さに呆れて笑いが込み上げる。

リリー・ポッターが嫌いなのも、亡き者を望んでいるのも、良い情報だったのも、私。

手の甲で目から溢れる雫を拐い、大きく息を吸い込んだ。


「ハハハ!」

Special Thanks
you
(2019.3.17)


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