人は見かけによらない。
それをこれほどまでに感じたことはなかった。
「ありがとう、ございました……」
ドクドクと全身に響くほど脈打つ胸に手を当てて、未だ戸惑いの残るままに礼を言う。
「礼は結構」
心底迷惑そうにこちらを睨む男は、それでも私を救ってくれた。階段を踏み外した私の腕を間一髪掴んでくれた。周りにはもっと頼り甲斐のありそうな体格や人の良さそうな顔もいたのに。手を伸ばしてくれたのは、周囲すべてが敵みたいな表情の奇妙な格好の男だった。
「すみません……」
「詫びるくらいならば他人を巻き込むな」
返ってきたのは見かけ通りの言葉。少し安心する気さえして、私の頬はヘラリと緩む。
「何がおかしい?」
「いいえ、何も」
まさかあなたが助けてくれるとは思わなかった、などとここで言わない良識くらいは持ち合わせている。
「あなたが力持ちで助かりました。手を掴まれたとき、ふわっと浮いた気がしたくらいですよ」
「馬鹿馬鹿しい。自分の愚かさに心臓が飛び上がっただけだろう」
ふん、と男が鼻で嘲笑を示した。
私が体勢を立て直すと彼はさっさとその場を後にする。目で追っていたはずがいつの間にか消えていて、心臓が小走りしていなければ幻かと思うほど。
「あれから何度も君を救うはめになるとは、最早呪いだ」
汗ばむ季節の昼下がり、私たちは初めてカフェで腰を落ち着けて会話をした。男に言わせれば、私に無理矢理引っ張り込まれたってところだろう。見かけによらず紅茶にこだわりがあるらしい彼は、店の出したものに満足したらしく、僅かばかり饒舌になった。
「呪いを信じるタイプですか?」
「……呪いは存在する」
ただのよくある表現を茶化してみれば、彼はフイと視線を逸らす。それがなんだか子供のようで、可愛く思えてしまった。まるで本当に信じているかのよう。
「じゃあ魔法も存在しちゃいます?」
「…………」
「冗談ですよ!魔法なんて絵本の世界です」
不機嫌な彼の真っ黒な瞳がこちらを刺して、私は笑いを堪えながら彼と同じ紅茶を飲んだ。
「こういうのは呪いじゃなくって運命って言うんですよ」
「自分の不運と咄嗟の判断能力が憎い」
「私、リリー・エバンズです。あなたは?」
「……スネイプ」
その出会いは、
まるで魔法のように
Special Thanks
PUNI様
(2018.11.18)