月明かりの下で
秘密の逢瀬。生徒を寮へと帰らせて、職員二人は校庭へ出る。重い樫の大きな正面扉が「いってらっしゃい」と軋みを上げた。
「スプラウト教授の机にラッパ水仙が飾ってあると春が来たなって思いますけど、夜は冷えますね」
「まだ雪が溶けたばかりだ」
「でも……うん、座れますよ」
城から少し離れた場所の芝を撫で、私はセブルスを手招いた。彼は呆れた笑みを浮かべながらも隣へと来てくれる。けれど立ったまま、彼はあちらこちらへ視線を走らせた。
「ここはグリフィンドール塔から丸見えだ。それに規則など自分には通用しないと思い込んでいる愚か者共もいる」
「それなら私にいい案があります」
そう胸を張って杖を取り出すと、彼から大きく五歩距離を取る。そして頭だけで振り返り、ニヤリと笑ってみせた。その口角に彼の眉間が深く寄る様を月明かりが教えてくれる。
「プロテゴ・トタラム(万全の守り)……マフリアート(耳塞ぎ)……サルビオ・ヘクシア(呪いを避けよ)……」
「これはこれは随分と念入りな守護呪文だな」
「いけない、目くらまし術を忘れるところだった!」
唱えながら、セブルスを中心に円を描くように歩く。半周ほど回ると、彼は一足先にその場へと腰を下ろした。
私たちを守るように出来上がった空間は、外界からその姿を隠す。声までもを誤魔化してくれると分かっていても、私たちは自然と顔を寄せ合い囁きあった。
「天体観測なら寝転んだ方が楽ですよ」
「今更天文学を学び直す気はない」
「流れ星を見るまでは付き合ってくださる約束です」
「たとえそれが朝になろうともな」
片眉を上げ、セブルスがふっと笑う。彼が杖を振ると毛布が私たちへと覆い被さった。その優しさを引き寄せて、自分のいたらなさを背に感じる。
「何か敷いておけば良かったですね」
「ここにベッドを作る気か?」
「朝まで一緒に居てくれるなんて言うから」
「リリー、私を観察したいのか?それとも星か?」
「今は星で」
彼と二人、校庭に寝転び待つのはただ一筋の流れ星。願うのは、
二人で見る桜。
Special Thanks
you
(2019.3.16)