緑色も蛇も大嫌い。
みんなみんな消えてしまえばいい。消失呪文を何度も何度も唱えても、杖を持つ勇気のない私には意味がない。嫌いなあいつもあいつもあいつも本当に消してしまえたら、私の気分はどれだけ晴れ晴れとするのだろう。
エバネスコ(消えよ)
エバネスコ
エバネスコ
そう繰り返して今日もくだらない時間をやり過ごす。罵声だとか、呪いだとか。いつも手数は貧弱で幼稚。
あいつらはマグル生まれの私がホグワーツにいることが気にくわないらしい。性格が合わないなら仕方ないとして、マグル生まれなのは私がどうこうできるものじゃない。
全くもって、馬鹿馬鹿しい。
私を囲んでいた人間たちがどこかへ去ると、無惨な姿となった荷物たちを元へと戻す。
「レパロ(直れ)……テルジオ(拭え)……」
どこかで耳障りな高笑いが聞こえた。最後に鞄を抱え直すと、廊下の隅にひっそりと転がる小石へ杖を向けた。
これは、つり上がった緑の目が醜悪なあいつ。
「エバネスコ」
これは、赤毛を汚く伸ばしっぱなしのあいつ。
「エバネスコ」
これは――
「その杖でやり返そうと思ったことはないのかね、ミス・リリー?」
突然廊下の角から現れたのはスネイプだった。私へ難癖つけてくるやつらの親玉のようなもの。彼は吐きそうな顔で私をじろじろと見て、鼻でせせら嗤った。
「見ていたなら止めるべきでは?」
「君が彼女たちに魔法を使う気ならな。グリフィンドールに減点と罰則を与えねばならん」
「教師の鏡ですね」
怒られるかと思ったのに。彼は歯向かわれるのが面白いのか、片眉を上げただけに留めた。
「何故やり返さない?」
「一対一の決闘ではないからです」
「正々堂々とやりたがるのはグリフィンドールの欠点だ。実に無意味。少しはスリザリンを見習いたまえ」
見習う?
「私はグリフィンドールを選んだんです。組分け帽子はスリザリンにしたかったみたいですけど」
「なら素質はあるのだろう。何も相手の有利な場にばかりいてやる必要はない」
「良いんですか?そんなこと言って」
「我輩は何も『やれ』と言っているのではない」
緑色も蛇も大嫌い。もちろんその親玉も。けれど私が蛇となって緑に染まるのは、
悪くない、と思ってしまった。
Special Thanks
you
(2019.3.13)