ヤドリギの木の下で
あなたを待つクリスマス。すり寄って抱いてもらえたならば、私の勝ち。
休暇にホグワーツへ残ればクリスマスに意中の人とディナーが出来るのだから、学生という身分も悪くない。今年は残る生徒がうんと少なくて、先生方との距離も近かった。同じ長テーブルを囲んでの食事は笑いの絶えないもの。それでもスネイプ先生が笑うことはないのだけど。
席を立ったのは私が最初。みんなに見送られて大広間を出た。寝る、なんて言ったけど、寮へ戻るはずの足はヤドリギの木の下へと向かう。近くを通るかも分からない意中の人を待つために。
「ニャーン」
そう漏れたのは、私の口から。クリスマスに力を借りたのは、ヤドリギだけじゃない。アニメーガスの力にも私は頼った。好奇心旺盛な友人たちとの興味本意の挑戦が役に立つかもしれないと。
寒さに震えながら待っていると、一つの足音が聞こえてきた。コツリ、コツリ、徐々に近付きその姿が視界に映る。
スネイプ先生!
そう発したはずの声は喉を震わせニャーゴと変わる。足元へ寄ろうと踏み出した足は、寒さのせいか慣れない変身のせいか、カクンと力が抜けてしまった。それでもめげずに身体を起こせば、今度はふわりと軽くなる。
「見てられんな」
私の身体はみるみるうちに地面から離れ、スネイプ先生の胸元へ。風から庇うように腕に抱かれ、至近距離の顔に胸が高鳴った。
あと少し、少しで届く。
クリスマスのヤドリギに許された場所へ。
身体を捩り、爪をローブへ引っ掻けて、渾身の背伸び。私のファーストキスは猫の姿という奇妙なものとなった。それでもひっそりと意中の人の唇へ成功したのだから、天にも上るような心地だ。
「猫の姿だとこんなにも大胆になるとは知らなかったな、ミス・エバンズ」
「ニ゛ャッ?」
驚きが素直な返事のように鈍い鳴き声となった。喜びは一瞬で消え去り身体は中途半端な伸びの姿勢で固まる。ぐるぐると頭中を引っ掻き回しても解決策なんて出てくるはずもなく、逃げろ、とだけの警報が身体を貫いた。
「暴れるな。逃がすはずがなかろう」
しかし私はスネイプ先生の腕の中。ガッチリと四肢を固定するように抱き直され成す術がなかった。この心臓の騒ぎようの理由はもはや判別がつかない。
「君が未登録のアニメーガスであることはマクゴナガルも把握している。その件についてと今の件、両方についてお話しいただくとしよう」
「ニャーン!」
コツリ、コツリ、と再び足音が響きだす。クリスマスの勇気がもたらしたのは、きっとこれからの
幸せな日々のものがたり。
Special Thanks
you
(2018.11.15)