I love you.
2018/09/24

ツイッターに上げたネームレス夢小説をここには置いてなかったな、と思いまして。

教授×助教授の恋人設定です。「I love you」をテーマに書いたのでそこだけ英語になっています。お好きな方は追記からどうぞ。


生徒が寮へ戻って少し経った頃、地下の一室で歓喜に震える私の声が響いた。すぐさまセブルスに視線で咎められ、「ごめんなさい」と苦笑する。しかし喜んでしまうのは仕方がない。ここ数ヵ月、ずっと研究していた魔法薬がついに完成したのだ。

セブルス曰く「復唱薬」

その名の通り、この薬を飲めば周囲の言葉を復唱するようになる。赤子が親の言葉を覚えるように、或いはオウムが人間の言葉を真似るように。

「では実験台には私が。信用していますよ、スネイプ教授」

「今回の調合に失敗はない。よって、私が使用する」

「失敗の可能性がある出来栄えなら、私に飲ませる。そう言っているように聞こえますけど?」

「正しくそう言ったはずだが?不足の事態への対応は君より私の方が適任だろう」

ちょっぴり傷ついた魔法薬調合師としてのプライドと、納得せざるを得ないセブルスの能力。反する言葉が出口で詰まり、一瞬の間が空いた。その隙に、机上のゴブレットは彼の手へと収まる。

辛うじて「あっ」とだけは声に出し、彼の喉がゴクリと上下する様を見届けた。

「如何ですか?」

喉が暑いのか痒いのか、隙のないいつもの黒衣を緩める彼を窺う。

「如何ですか?――概ね問題ない」

返ってきたのは私の言葉とそれに対する返答。復唱だけではなく自分の意思でも話せるらしい。私はすぐさまメモを取り、彼と向かい合う。そして目視で判断できる彼の状態を細かく書いていった。

「次は教授の体調をお聞かせください」

セブルスはまた丁寧に私の言葉を繰り返してから自分の言葉を述べた。


「聞き取りはこんなものですね」

「聞き取りはこんなものですね。――今日はこれで終わりだ。効果もそう長くは持つまい。君はもう休め」

「はい、ありがとうございます」

復唱する彼の声を聞きながら、無言呪文で研究室の片付けをする。今日の仕事はこれで終わり。つまりは今から私たちはプライベートな関係へと変わる。少々の悪戯心だって許され……たり許されなかったり。しかし今が絶好の機会であることは間違いない。ニヤリと笑った私に目敏く気付き、セブルスの眉間が狭まった。手荒く追い出されないのは私だからだと自惚れてもいいだろうか。

「君は可愛い」

「君は可愛い――おい」

「美しい」

「美しい――やめろ」

セブルスの手をひらりと躱す。

「そして聡明で」

「そして聡明で――いい加減にしろ」

「誰よりも魅力的」

「誰よりも魅力的――後悔することになるぞ」

とうとうセブルスが杖を取り出した。私は盾代わりにとそばの棚から広口瓶を持ち出して、眼前へと翳す。魔法薬をこよなく愛する彼がその材料を危険に晒すはずがない。瓶の後ろから顔を出せば、彼は苦々しい表情で杖を懐へ戻していた。

彼の雷を防ぐには、次を最後に止めるべきだろう。

「……I love you」

考えて、そう言った。

無理矢理言わせて嬉しいわけではないけれど、彼がどんな表情をするのかには興味があった。セブルスはたっぷりと魔法薬の効果に抗う間をとって、空気を呑むように口を開閉する。やがて諦めたのか力を抜いて、その漆黒の双眼を私へ向けた。

「I love you」

身体の芯が爆発したかのようだった。セブルスは何食わぬ顔でこちらを見ているというのに私の顔はきっと赤い。扇いでも扇いでも火照りは鎮まりそうになかった。

「じゃあそろそろ部屋へ戻ります」

瓶を棚に戻し、逃げるように扉へ向かう。しかしセブルスの横を抜けるとき、彼が私の腕をガッチリと掴んだ。その表情は先程とは違うニヤリとした悪戯な笑み。

「そう急ぐこともないだろう」

「あっ、魔法薬の効果が切れたんですね」

「さよう。――さて、散々私で遊んだのだ。し返されても文句はあるまい?何、君にとっても損のないことだ」

何となく、自分のこれからを悟ってしまった。腕を引かれ、腰を引き寄せられて、それは確信へと変わる。

「君は生徒ではない。そう律儀に部屋へ戻る必要はないだろう」

返事の代わりに、そっと目を閉じた。



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