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星紡ぎのティッカ11


「ステラ、ステラ、大丈夫?」
 軽く身体を揺さぶると、ステラは小さく呻きながら顔を上げた。まだぼんやりした様子の彼女を助け起こし、軽く土を払ってやる。見たところ、大きな怪我はないようだ。
「どこか痛いところは?」
「……平気。ちょっと目が回ったけど」
 ステラは目を覚ます時のように軽く自分の頬を叩くと、しっかりとした口調で答えた。とりあえずは安心してもよさそうだ、と息を吐くと、ティッカは改めて転がり落ちた斜面を見上げた。
「私達、あんな高い所から落っこちて来たのね」
「びっくりしたよ、もう……熊も、もう大丈夫みたいだね」
 元居た場所は目視するのが辛い程に遠く、かなりの距離を落ちてきたことが判った。ここまでくれば、わざわざ熊も追っては来るまい。怪我の功名、だろうか。
「それにしても、ここは何処だろう……?」
 見上げてみて気付いたが、どうも森を抜けてしまったらしい。鬱蒼と空を覆っていた木々は途切れ、薄い雲を通して月と星がティッカ達を照らしていた。二人で座り込んだ道は平坦に均され明らかに人の手が入っている。しかし、ティッカはこの場所に見覚えがなかった。あまり村から離れたことはないが、周辺の街道くらいは把握しているつもりだったのだが、さっぱり分からない。星の位置をみても、そう村から遠くはないはずだが――。
「ティッカ、あれ」
 怪訝に周囲を見渡すティッカの腕に、ステラが触れる。あれ、と彼女が指差す先を見てみると、そこにあったのはこんもりとした土の山だった。土砂崩れの後、だろうか。土の中には大小の岩が入り混じり、折れた木の幹も飛び出している。その他にも雑多な物が紛れ込んでいるようで、泥に汚れた白い布や、破損した金属製の部品なども見えた。鉄が半月を描いているものは、車輪だろうか。
「……馬車?」
 だとしたら、破れた布は幌の名残か。積まれていた荷物と思しき物も辺りに散乱している。そして、そのすぐ傍には二つの人影があった。男と女、どちらも歳は三十そこそこだろうか。馬車の残骸の傍らで膝をつき、女の方は両手で顔を覆っていた。泣いているのだ。声は聞こえなかったが、なぜかそう確信した。そして、その髪の色。まるで暗闇に差す暁のような赤。そう、女が持っているのは、彼女と同じ色だった。
 それに気付いた瞬間、ティッカは息を呑む。あの二人の顔を、どこかで見たことはなかっただろうか。忘れてなどいない。ハダル村で、ティッカにいつも良くしてくれた――カペラの両親だ。
 なぜ、彼らがこんな所にいるのだろうか。いつ村に戻ってきたのだろう。何をしているのだろう。あの残骸は一体なんなのか。ティッカはあらゆる事柄を考えた。しかしその一方で、何かがティッカに囁いていた。この光景を知っているはずだ、と。直に見ていなくても、散々夢に魘された。
 ――カペラは、馬車での移動中に、土砂崩れに巻き込まれて。
「なんだよ……これ……」
 目の前にある光景は、ティッカの罪そのものだった。たまたま似たような状況、ではない。ここは星の落ちる森。地上で、最も星の力の受ける場所。怒れる星々が、その日を再現してティッカに見せているのだろうか。そうでなければ、時が歪んだとでもいうのか。理解の範疇を超える現象に、ティッカの足はすっかり竦んでしまった。手足は震え、喉は引き攣り、そこから僅かも動けない。
 だが隣にいた少女には、それらは何の意味も成さないようだった。ティッカの心情など知る由もなく、ステラは土砂の山に向かって走り出した。
「ステラ……!」
 名を叫んでも振り返ることさえせず、彼女は一目散に馬車の残骸へと駆け寄った。そして次には、あろうことかその手で土を掘り返し始めたのである。顔や腕が汚れ、爪に泥が詰まるのも厭わず、ステラは少しずつ土砂の山を崩していく。動けないままにその姿を見つめ続けて、どれくらいの時間が経った頃だろうか。不意にステラは手を止めて、ティッカを振り返る。
「ティッカ」
 こちらへ来い、という意味をその声音に込めて、ステラは手招きする。ティッカは躊躇わずに頭を振った。嫌だ。見たくない。そこに何があるというのだ。しかしステラは、更に語気を強めてティッカを呼ぶ。
「ティッカ、こっち来て」
 繰り返されるステラの声に、ティッカの足がのろのろと動き出す。近付きたくなどなかった。なのにステラに吸い寄せられるように、ティッカと土砂の距離が徐々に短くなっていく。泣いていた筈のカペラの両親は、いつの間にか消えていた。しかし、そんなことはもうどうでもよかった。この土の下に、カペラはいるのだろうか。
 ようやくステラの元まで辿り着くと、彼女は淡く微笑み手のひらを差し出した。
「見つけたの、私の落とし物」



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