猫と少女と希望の話2
自嘲するように、少女は笑った。母に捨てられた自分が惨めで可笑しいのか、それとも野良猫相手にこんな話をしているのが馬鹿馬鹿しく思えてきたのか。少女自身にもよく分からなかった。それでも、ひび割れた唇はとめどなく言葉を紡ぐ。
「けど、もうそれはどうでもいいの。一人でもなんとかやってるし、慣れたもの。でもね……」
流暢な口調が途切れたかと思うと、少女は視線を落とし口をつぐんだ。すると、突然様子の変わった少女を不思議に思ったのだろうか。猫は首を傾げて少女を見つめると、みゃあ、と小さく鳴いた。
その声に先を促されたような気がして、少女は途切れた言葉の先を口にした。
「私、明日で十五になるの。知ってる? 女子の成人の誕生日はね、お母さんや友達が花冠を編んで贈って、皆でお祝いするの……私は誰もいないけどね」
そこまで言うと、少女は諦めたようにため息を吐いた。
「仕方ないわよね。お金もないし、私にあるのはこの名前だけ。お母さんも、もっと形のあるものを残してくれたらよかったのよ。名前なんか、誰も呼ばないから意味がないもの」
心底恨めしげに、少女は呟いた。猫はというと、もうお前の話は飽きた、と言わんばかりに大あくびをして立ち上がった。そして身体を低くして思い切り伸びをすると、軽やかに地面に降り立った。
「あ……」
猫は少女に背を向けると、振り返る素振りもなくあっという間に去っていった。
「……薄情者」
取り残された少女は、猫が走っていった方向を見ながらそう溢した。そもそも猫に情など求めていたわけではないのだが、唐突に走り去られては悪態もつきたくなるというものだ。
とはいえ、ここで愚痴ばかり言っていても不毛なだけである。仕事を探すか物乞いするか、彼女は今日の糧を得なければならないのだから。少女は気怠げに立ち上がると、来た道を戻るように再び歩き出した。
「……私だって、本当は誰かに花冠を貰いたかったの」
去り際、吐息と共に吐き出された望みを聞いた者は、誰もいなかった。
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