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猫と少女と希望の話3





 翌日。十五歳になったホープは、同じように路地裏をふらふらと歩いていた。結局あの後はロクなものにありつけなかった。口にしたのは泥水と、散々通行人に踏みにじられた後の残飯が少しだけだ。運が良ければ堅パンくらいは手に入るのだが、どうにも最近はついていない。
「……ちょっともう、ムリかも」
 誤魔化し続けてきた空腹も、そろそろ限界が近かった。ついに足が止まり、ホープはぐったりとその場に座りこんだ。
 低くなった視線で辺りを見渡すと、今いるのは昨日と同じ路地だった。殺風景な、代わり映えのしない場所。一つ違うことといえば、我が物顔で寝そべっている灰色の猫が居ないことくらいか。
 徐々に四肢から力が抜けていく中、ホープは昨日の猫に思いを馳せた。威風堂々と荒んだ街を歩く、路地裏の王様。猫はいい。ちょっと人間に甘えれば餌が貰えるし、細い隙間も抜けて街のどこにでも行ける。そうしてホープのような惨めな人間を見て、彼らは笑っているのかもしれない。
「私も、猫だったら良かったのに」
 ぼんやりと思考しながら呟くと、どこからかにゃーん、と返事が聞こえた。
「あ、お前……」
 声のした方へ首をもたげると、そこにいたのは昨日出会った灰色の猫だった。藪のなかでも潜って来たのだろうか、その毛並みには小さな葉や枝があちこちにくっついていた。猫は不愉快そうに身を震わせると、それらを払ってくれというようにホープにすり寄ってきた。
 昨日はあんなに態度が大きかったのに、現金なものだ。そう思いながらも仕方なしに毛繕いを手伝ってやると、ホープはゴミくずに混じっていたとあるものを見つけた。慎重にそれを手に取ると、猫は概ね綺麗になった毛皮に満足したのか、にゃー、と一声鳴いて去っていった。慌ただしく駆けていった猫の後ろ姿を見送ると、ホープは己の手のひらに目を向けた。
 そこに残されていたのは、小指の先ほどの小さな花だった。白い花弁は瑞々しく、ほのかに甘い香りを放っている。ホープの薄汚れた手の中で、それは灯火のように優しく輝いて見えた。
「……なんだ。私の話、ちゃんと聴いてたの」
 ただの偶然かもしれない。それでも暗闇にほんの少し光が差したような気がして、ホープは力なく微笑んだ。
 街のあらゆるものをみて、野良猫はなんでも知っていた。少女の願いも、その名の意味も。


End



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