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恋月想歌15


 続いて聞こえてきたのは、呆れと苦笑の入り交じったような声だった。聞き覚えのあるそれにゆっくりと目を開けると、傍らに立っていたのはやはりレストだった。今はその紅の瞳を隠すことはせず、庇うようにリムの前で片手を差し出している。少し前方に視線をやると、先程の獣が地に伏しているのが見えた。彼が守ってくれた、ということだろうか。
「大丈夫かい? 悪かったね、囮に使うような真似をして」
 戸惑うリムに気づいたのか、幾分か声を和らげてレストは言った。
「おとり……?」
 未だに恐怖から覚めきらない頭で、それでもなんとか聞き返す。
「調べ物と言っただろう?君の話してくれた事件について、ね。そこの彼が色々粗相をしたみたいだから、ちょっと引っ張り出そうと思って」
 そこの彼、と呼ばれた青年がピクリと眉宇をひそめた。
「……ようやく出てきたかと思えば、まだ人間を守護するおつもりか」
 ――いったい、何を言っているのだろうか。ヴァンパイアは人の血を啜る化け物の筈なのに、守護とはどういうことなのか。徐々に思考を取り戻してきた頭が、再び混乱しそうだ。そんな中ではっきりと認識できた事実は、黒髪の青年の名がディアンというらしく、村人を次々と殺していた張本人であるということ。そしてレストの知り合いであるらしく、殺されかけたリムを彼が助けてくれたということだ。
「……そうじゃないよ。ディアン、君は勘違いしているようだ」
 ため息混じりにレストは首を横に振った。



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