恋月想歌7





 誰も居ない聖堂で十字架の前に跪き、手を組んで祈る。一日の終わりの習慣だ。その日を無事に過ごせたことに感謝を捧げ、同じように明日が来るよう願う――しかし今のリムの頭の中は別のことで一杯だった。昨日出会った青年のことだ。調べ物をしに来たと言っていたが、なぜあんな場所で倒れていたのか、とか、何回思い出してもぞっとするくらい整った顔立ちだったな、とか……正直なところ雑念ばかりで祈りどころではない。リムは手をほどき、ゆっくりと目を開けた。
「……シスター失格ね、これじゃ」
 十字架を見上げたまま溜め息をつくと、思いもよらぬ声が背後から掛けられた。
「何が、だい?」
「……きゃあああ!」
 振り返った視線の先に居たのは、まさにリムの思考を占拠していた青年――レストその人だった。思わず悲鳴をあげたリムに苦笑しながらも、彼は落ち着かせるように声を掛ける。
「すまない。そんなに驚かせるつもりはなかったんだけど」
「い、いえ、私こそすみません!」
 我に返ったリムは、慌てて非礼を詫びた。まさか人が、しかも彼が居るとは思わなかったのだ。早鐘を打つ心臓に鎮まれ、と言い聞かせつつ頭を下げれば、彼は気にしなくていいよ、と笑った。
「ところで、今日は教会で何かあったのかな?」
 どうやらそれが気になってレストはここに来たらしい。だが今日は特別なことは何もなかったはずだ。リムが祈りに来る前に、恒例のミサが行われていたくらいである。



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