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千夜に降る雨20




「…それでおしまい?」
 背後からの祖母の隣に移動した少女は、つまらなさそうにそう言った。祖母はせっかちな子だねぇ、と笑って続きを話し始めた。
「天狗様はね、たいそう悲しまれて、来る日も来る日も泣いていたんだと。でもね、山の天気は天狗様のご機嫌で変わってしまうんだ。天狗様がずっと泣いていたら雨ばかりになってしまうだろ?だからね、娘の『ちよ』という名になぞらえて、千の夜……千夜(ちよ)を数えるときにだけ泣くようにしたんだよ」
「ふぅん……」
 やはり少女は退屈そうに、両足を中にふらつかせたまま、生返事を返した。遊びに行きたいのに、という不満げな表情がありありと見てとれる。
「今日がその『千夜』。だから雨が降るんだよ」
「降らないよー。晴れてるもん!」
 どうしても納得できないらしい少女は、勢いをつけて縁側から飛び降り、山へ繰り出すべく靴を履き直した。その様子に祖母は苦笑しながらも、そっと促した。
「本当かい?上を見てごらん」
「もー!おばあちゃんが行かないなら私一人で――」
 そこまで言いかけて、少女は自分の頬にぶつかった冷たい感触に目を見張った。
「あ……」
「ほら、天狗様の涙だよ」

 いつの間にか太陽は隠れ、雲が光を遮っていた。あの日の空と同じように――。




―終―



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