千夜に降る雨18
「……どういうことだ?」
ようやくそれだけ尋ねた雷に、ちよはぽつぽつと自分の事を話し始めた。
「私の目が見えないのは生まれつきだったの。そんなだから家の手伝いも出来なくて、よく罵られた。でも、ある時から、時々知らない風景とか、未来の事が見えるようになったの」
溜まっていたものをすべて吐き出すように、ちよは話し続けた。村の事、薬師の嘘、そして、先程の状態を含めた母の事も。
「息をしてなかったの。雷、神さまなら何とかできるでしょう?お願い――」
ちよは最初の焦りを取り戻したように、雷に言った。その為にここまで来たのだ。
しかし雷は、少し気まずそうな顔でちよを自分から引き剥がした。
「……できない」
静かに、しかしはっきりと彼は告げた。
「え……?」
「俺は、お前が想像しているようなモノじゃない」
ちよは何を言われているのか解らない、といった様子で立ち尽くした。
神、と言われればそうなのだろう。雷は人間に比べてとても長命だし、食事も睡眠も必要としない。かといって、人々が想像するような超常的な力は持ち合わせていなかった。せいぜい翼で中を舞うくらいなものだ。ましてや……死んだ人間を生き返らせるなど。
「……そっか」
ようやく思考が動き始めたらしいちよが呟いた。
「神さまも万能じゃないんだねぇ」
ふふ、とちよは笑ったが、その笑顔は虚ろなものだった。
「ごめんね。もう帰るね」
そう言って、ちよは背を向けた。
「……送っていってやろうか?」
「大丈夫だよ―、道分かるもん」
そう言うと、元来た道を歩き出した。
「……また来るんだろう?」
思わず尋ねた雷に、ちよは振り返らないまま答えた。
「そう、だね……また。じゃあね!」
一度は止めた足で今度は駆け出し、彼女の姿は森の闇へと溶けていった。
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