千夜に降る雨13



 ちよは、生まれつき盲目だった。
 労働力にならない、役立たずの娘……周囲からそう囁かれ、ちよ自身もそう思っていた。肩身を狭くし、盲目の自身を嘆く日々――そんな日常に変化があったのは、ちよが十の年を数えた日だった。突然、空の色が見えたのだ。雨雲が立ちこめ、薄暗い村の情景。目が見えるようになったわけではなかった。ほんの一瞬、その場面が目の前によぎったのだ。
 雨が降る、と彼女は言った。別段おかしいことではなかった。視覚的に感じ取れなくても、雨の日独特の湿った空気や匂いがあるものだ。しかし彼女は「村の一番大きな木に雷が落ちる」とも言った。そしてそれはその通りになったのだ。
 それだけなら偶然で済まされたのかもしれない。しかしその日を境に、ちよは未来を、自分の知らないものを見るようになった。最初のように目の前によぎることもあれば、夢に見ることもあった。ちよは嬉しかった。これで自分も少しは役に立てる。病の母の支えになれる……そう思ったのだ。
 しかし彼女の気持ちとは裏腹に、大人たちはちよを気味悪がるようになった。役立たず、といつも彼女を罵っていた母は、目を合わせることすら無くなった。少しでも皆に、母に認めてもらいたいという少女の願いは届くことはなかった――。



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