千夜に降る雨8
「ここのところ、もうずっと雨が降らないでしょ?そのせいでどこの村も不作なのよ。家畜も死んじゃうし、飲み水を確保するのもやっと……だから」
ちよは先程のにぎり飯を再び雷に押し付けた。
「白米も貴重なの!有り難く食べなさいよね」
反射的に受け取ったそれを数秒見つめたあと、雷は口を開いた。
「お前の村もか」
「え?」
「水不足。お前の村もか」
ちよは少し躊躇いがちに頷いた。
「うん……うちは少しだけ蓄えはあるけど」
「ならお前が食えばいい」
「でも、天青草のお礼もきちんと出来てないし……」
ちよはなおも食い下がった。金も物もない生活の中、自分にできる精一杯の礼がこれなのだ。
「場所を教えただけだ。気にされることじゃない。母親にでも持っていってやればいい」
母が病気なのだ、と彼女は言っていた。良くなっているのかもしれないが、病気後の体力が落ちた体なら、尚更栄養が必要だろう。
「……母さまに。そうね、ありがとう」
呟くようにちよは言い、今度こそ納得した様子で包みを仕舞い始めた。
「それに、生憎食い物には困らんのでな」
「……そうかなーとは思ったんだけどねぇ」
ちよは苦笑した。これだけ山の緑が深ければ山菜や木の実も豊富だろうし、それを食べる動物もいる。水もあるだろう。食糧難には程遠い。
「不思議ね。全然雨が降らないのに、こんなに豊かな場所があるなんて」
「お前に見えないだけで実は枯れ山かもしれんぞ」
それを聞いたちよは、思わず吹き出した。
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