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千夜に降る雨7



 それからというもの、ちよは毎日やって来ては、隣のおばさんがとか、野良犬がとか、他愛のないことを話し続けた。定位置は大岩の上の雷の隣である。そして今日も。
「ねぇ、雷ってば!聞いてる?」
 数日もすれば飽きるか、山登りが嫌になるだろうと踏んでいたが、今日でもう十日目である。華奢なようでいて、ちよは中々の強者のようだ。日光浴に加え、ちよの話に相槌をうつのも雷の日課になりつつあった。
「あぁ……なんだ?」
「もう、聞いてないんじゃない!」
 そう言ってちよは肩をいからせた。しかしその声は言動ほどには怒っていないようだった。
「仕方ないわね。私ばっかり話してるのも何だし、雷の話も聴いてあげるわよ?」
「いや、特に何もない」
「……せっかく訊いてるのに。あ、そうだ!」
 拗ねたようにむくれてみせたちよだったが、突然何かを思い出したように手に持っていた包みをほどきはじめた。
「いいもの持ってきたんだ。はい!」
 そうして雷の前に差し出された、白くてつやつやした、三角形のそれは。
「……にぎり飯?」
「……感動薄いわね」
 それがどうした、という反応の雷に、ちよは口を尖らせた。
「まぁ、これだけ緑が豊かな所に住んでたら仕方ないかしら……」
 そう言って、木々の葉に囲われた空を仰いだ。今日も晴天。空は青すぎるほどに青い。目に映らずとも、ちよは自分を包む空気でそれを確信していた。
「雨、降らないわよね」
「到底降りそうもないな」
 それを聞いたちよはひとつ大きな溜め息をついた後、静かに話し始めた。



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