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12


「こっちに来るな。ほら、隠れるぞ」
「……う、うん」
 言われた言葉に思うところがあったのか、今度はルカも素直に従った。それに安堵しながら、獣道から脇に逸れ木陰に身を隠す。息を潜め様子を伺うと、男達の話し声が近付いてきた。幸い、こちらに気付いたような素振りはない。そのまま彼らは何事もなくゼキア達の前を通り過ぎる……はずだった。
「おい、何だあれ」
 先頭を歩いていた商人が、頭上を仰ぐ。それに続いて他の商人も仲間の指差す方向を見上げた。
「烏……じゃないな。蝙蝠か?」
 そこに見えたのは、木々の枝に密集する黒い生き物だった。別段、蝙蝠など珍しくはない。ただ、その様相はあまりに異様だった。夥しい数の蝙蝠は一匹たりとも違わず、虚空のようなどこまでも暗い瞳で、商人達を狙い澄ましていた。例えるなら、獰猛な捕食者のように。そう、あれは蝙蝠などではない。
「――か、“影”だ! 逃げろ!」
 勘の良い者が叫んだ。それを合図にしたように、“影”達は一斉に不愉快な鳴き声を上げ飛び立った。無数の蝙蝠は、商人達を目掛け急降下する。
「う、うわぁああ!」
 標的となった男達は、情けなく叫びながらも手にしたランプを振り回し応戦する。それが功を奏したか、“影”の群れは波が引くように一瞬身を引いた。光を恐れたのだろう。その隙を突き、商人達は慌てて馬に飛び乗った。
「早く! 早くしろ!」
 蝙蝠達は再び狙いを定めるが、襲いかかるより商人達の逃げ足の方が早い。馬の嘶きと共に、商人達はあっという間に木々の向こうへと姿を消してしまった。惜しくも三人の男を取り逃がした“影”達は、諦めたように散々になっていく――否、それはまったくの見当違いだった。
 身を翻した無数の蝙蝠は、再び宙で群れをなす。再度、攻撃の体勢を整えているのだ。もっと、狩りやすい獲物を見付けたのである。
「――いけない!」
 最初に動いたのはルカだった。蝙蝠達と競うように横たわる少女に向かって突進する。辛うじて先に辿り着くことに成功すると、ルカは覆い被さるようにして少女の身を庇った。
 その姿に、“影”は金切り声を上げ歓喜した。彼らにしてみれば、無防備な餌が増えたにすぎないのだ。
「あいつ、また先走りやがって!」
 ゼキアは一つ舌打ちすると、ルカの後を追った。“影”は遅れてきたゼキアになど目もくれず、次々と二人へ群がっていく。それを払うべく、ゼキアは腰から剣を抜き一閃する。切りつけられたいくらかの蝙蝠が地に落ちるが、全ての相手をするのはいくらなんでも無理がある。この森林地帯で炎を使うのは抵抗があるが――。
「くそ、仕方ねぇ」
 多少の危険は伴うが、仕方ない。そう腹を括り、ゼキアは眼前に剣を横に構えて意識を集中した。下手をすれば木々に燃え移り大火事だ。いつも以上に厳密に魔力を調整する必要がある。いつもは勘に任せているその過程を、緻密に仕上げていく。
「……多少熱くても我慢しろよ!」
 出来た。その瞬間、ゼキアは空を薙ぎ払った。切っ先から炎が迸る。生み出された灼熱は黒い塊を飲み込み、魔の物だけを食い尽くしていく。鬱陶しく周りを飛び交う数匹は、直接切り落とした。大半の蝙蝠が塵となる頃には、残った僅かなもの達も散々に飛び去っていった。残されたのは、地面にうずくまった人間が二人。


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