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 そこで一度、会話が途切れる。不思議と穏やかな空気の中で、ゼキアは裁かれることなく消えた真の首謀者に思いを馳せた。シェイドが語ったこと、望んだもの。結果的にそれが腐敗していた国の在り方を変えたのは、皮肉としか言いようがなかった。彼の目的は果てしなく、例えあの化け物がどれほど強力でも叶ったかどうかは分からない。時代が生んだ必要悪か、道化師か――そうとさえ思える気がした。無論、成した所業は許されることではなかったが。
「……私、王女らしくないってよく言われるんだけど」
 ふと、ゼキアの思考を遮るようにルカが口を開いた。普段の快活さに僅かに影を落として、彼女は語り始める。
「街を出歩いたり、剣を振り回したり、そういうのもあったけど……そもそもお父様がまともに王女として扱わなかったのよね。今思えば、私が生まれた頃には既にあの化け物に夢中だったんだろうけど」
 道中の与太話というには彼女の声音は堅く、何かを伝えようとしているのが分かった。突然の身の上話に戸惑いつつも、ゼキアはそれに耳を傾ける。珍しく伏せられた瞳に気を取られた、というのもあったかもしれない。
「肝心の王がそれだから、臣下達も私に見向きもしないし、むしろ邪魔者扱い? オルゼスだけは色々と気に掛けてくれてたけど……お父様が心配されてますよ、って。嘘なのは、知ってたんだけどね」
 ――どうやら彼女の王城での生活は、ゼキアが想像していたものとはかけ離れていたようだった。臣下達の冷えた視線、肉親の情を持たない父親、箱に仕舞われた人形の如く誰も気に留めない王女。
「だからね、王族なんて肩書き殆ど意味がなくて、本当にただ城にいるだけの穀潰しだったのよ」
 そこまでルカが語り終えたところで、丁度『ライトランプ』の前まで辿り着いた。空はより赤く深く燃え、灰色の貧民街を鮮やかに染め上げる。全ての家が灯火によって照らされたかのような情景ではあったが、所詮は一時のものだ。すぐに歩くのもままならない程の闇が来る。そろそろルカも帰らなければまずい時間だ。シェイド達を退けても“影”の脅威が無くなったわけではない。貧民街の人間を餌にする魔物は未だ夜に蔓延っている。唆していたシェイド達が消えたお陰か以前よりは頻度が減ったようにも思えたが、危険なことに変わりはない。そんなことくらいルカも解っている筈だが、彼女は動こうとしなかった。まだこの場を離れ難い、というように。
「……なんで、俺にそんな話をしたんだ」
 無理矢理にでも追い返せと告げる理性に反して、口からはそんな台詞が零れ落ちる。まだ、彼女の伝えたい要の部分を聞いていないと、直感的に思ったのだ。
「……私だけ貴方の昔の話聞いちゃったの、悪かったかなって。あとは、単に私が話したかったから、かな」
 促されてルカが口にした言葉は、どこか歯切れの悪いものだった。だが一瞬口篭ったかと思った後、意を決したようにルカは顔を上げた。
「あのね、後継者の話なんだけど……私が王位を継ぐことになったの。色々あったけど、結局血統を重んじるってことになって」
 そうして告げられた内容に、思考が一瞬止まった。思わずルカの顔を凝視する。王位、ということはつまり。
「……まぁ、そういう反応だろうとは思ってたけどね」
 苦笑する彼女に弁明も反論も出来ず、ゼキアは固まっていた。確かにルカは先王の一人娘で直系の王城であるし、過去にエイリムに女王が居なかったわけでもない。頭でそれは理解しているのだが、彼女が王として振る舞う姿などあらゆる意味で想像が出来なかった。


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