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 見慣れた貧民街の路地を通り過ぎ、市街地から市場、そして街の大通りを全力で走る。お守りに込められていた魔力は、時間が経つほどに少しずつ薄くなっていた。大体の方角は把握していたものの、このままでは見つけにくくなる一方である。急がなければいけない。取り返しのつかないことになる前に。
 己の感覚に任せてイフェスを駆け抜け、ゼキアは貴族街と呼ばれる区画に差し掛かっていた。聳え立つマーシェル学院が、否応なしに瞳に映り込む。丁度ルカと最後に顔を合わせた場所の辺りで、ゼキアは一度足を緩めた。再度、彼女の居所を掴むべく魔力の残滓を辿る。だが、もはや明確な気配は殆ど残っていなかった。辛うじて判るのは、お守りが発動した場所はここから更に遠いということ。貴族街の先、恐らくは王城の敷地内だ。
 ゼキアは苛立ちに歯噛みした。王女の癖に、城の中で危険に晒されるようなことがあったのか。いくらゼキアでも、単身で王城に乗り込むには厳しいものがある。何かの間違いであればいいという希望と、そんなに精度の悪いものは作っていないという矜持とがゼキアの中でせめぎ合っていた。それでも見捨てるという選択肢は除外されたまま、高みにある王城に向けて歩調は早くなっていく。
 そこでゼキアは、ふと周辺の雰囲気が前とは違うことに気が付いた。もちろん景色は変わっていないのだが、住人達の姿が違う。人通りがやけに少なく、代わりに物々しい装いの男達がうろついているのである。
「……騎士団か?」
 見かける男達はみな一様に帯剣し、薄緑の詰襟を身に纏っていた。騎士団の正規の装いとよく似ているが、色や装飾が違う。国に属する何かしらの組織だろうことは想像がついたが、剣を携えて巡回しているとは一体何事だろう。
 いずれにせよ、貧民街の人間が歩いているのが見つかれば面倒事にしかならないのは確かだ。彼らの目に付かないように、距離を取ったまま様子を窺う。男達はいつでも剣が抜けるよう柄に手を添え、周囲を何度も見回していた。時折、同じ制服を着た者同士で言葉を交わしているのが見える。まるで街中を逃亡する罪人を追っているかのようだ。
 不意にやり取りをしていたうちの一人が身体の向きを変えたのを見て、ゼキアは咄嗟に近くの建物の影に身を隠した。自分は以前、マーシェル学院で一悶着起こしている。捜索の対象がゼキアだとは限らないが、進んで姿を晒す気にはなれなかった。
「――いたぞ!」
 そのまま息を潜めていると、どこからかそんな声が聞こえた。このまま貴族街の外まで逃げ切るか、或いはさっさと捕まってくれれば動きやすくなるのだが――そんな淡い期待を胸に成り行きを見守っていたゼキアだったが、目に飛び込んできた光景に顔を引き攣らせた。
 先程の声に気付いたのだろう、追われていたらしい人物が通りにまろび出る。長い髪を振り乱し、懸命に男達から逃れようと走る女性。最悪なことに、彼女の特徴はゼキアの探し人と完全に一致していた。追われていたのは、ルカである。


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