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 学院の敷地に足を踏み入れるのは、呆気ないほど簡単だった。まずは門前の警備に声を掛け、学生に知り合いがいるので面会に来た、と言う。先程のゼキアの件もあってか初めこそ疑わしげな視線を向けられたが、金細工の小さなブローチを握らせるとあっさりと引き下がってくれた。街に出る際に、必要なら換金できるよう常に持ち歩いていた物である。幸い、最近は金を使うような事は殆ど無かったし、装飾品などルカには不要である。役立つ機会があって良かったというものだ。警備の彼は、暫く仕事をしなくていいくらいの金が懐に入ることだろう。双方の行為が褒められたものではないことなのは充分理解していたが、今は仕方がないと割り切ることにする。
「西側の研究室、だっけ」
 王が口にしていた言葉を思い出しながら、ルカは堂々と正門を抜ける。学舎までの道は、優美な庭園と一体化していた。煉瓦で作られた赤い通路の脇には低木の緑が鮮やかに映え、広々とした花壇には季節の花々が咲き誇っている。中央の幅の広い道を通っていけば一番大きな学舎へと突き当たるが、用があるのはそちらではない。ルカは学舎を横目に見るようにして、交差している別の道を辿り始めた。幸いにして、庭園内に人の気配は少ない。あまり学生が出歩く時間帯ではないようだ。元々研究者やそれに投資する貴族などの出入りもあるし、ルカがうろついていたところでさほど目立たないだろう。
 不審に思われない程度に辺りを窺いつつ、それらしき場所に目星を付ける。先程、門の外から眺めていた建物だ。無造作にそこへ近付こうとして、ルカは不意に進行方向を変えた。入口と思しきあたりの周辺に、いくつかの人影を見つけたからだ。学生か研究者か、そこまでは分からなかったが、どちらにせよ何か尋ねられても誤魔化せるだけの話術が自分に扱えるとは思わなかった。顔を合わせない方がいいだろう。正面ではなく建物の壁に沿うようにして裏側へと回り込み、そこで一旦息を吐く。
「……大丈夫そう、かしら?」
 とりあえずは気付かれずに済んだことに、ルカは胸を撫で下ろした。しかし、問題はここからである。庭園内だけならともかく、施設の中を好き勝手に歩き回るのは難しい。門の警備と同じ手を使うことも出来るかもしないが、本当に王が関わっているのなら通用しないだろう。他の手段を考えなければならない。
 建物の裏手は日が陰り、どこかじっとりとした空気が滞っていた。壁を形成する煉瓦も、どこか湿り気を帯びている。よく見れば触れた煉瓦は角が取れて滑らかで、他の学舎と同じくらい古い物のようだった。正面から見た時には分からなかったが、裏手は昔の建築をそのまま利用しているらしい。
 流石にこんな所に用事のある者はいないのか、通りかかる影もなかった。人目がないのなら堂々と動ける。窓や換気口があれば侵入するか、それが無理でも中の様子を探るくらいは出来そうだ。そう思い立つと、ルカは早速周囲を調べ始めた。だが生憎と窓は二階以上の高さにしか無く、とても利用出来そうにない。よじ登れないだろうかとも思ったが、凹凸のない壁を自力で上がっていくのはかなり厳しい。
「やっぱり正面突破しかないかしら……ん?」
 一人ごちながら目の前の壁を眺めていると、ふとある箇所に目が止まった。一見、何の変哲もないただの石壁だったが、よく見る僅かに色の違う、親指大ほどの石がはめ込まれていた。それには小さな傷のようなものが刻まれており、三角形を組み合わせた模様のようにも見えた。その形に、見覚えがある。
「これって、隠し扉の……」


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