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「まさか、外に出たんじゃ……」
 慌てて、名を呼びながら家中を探し回った。物置、台所、ベッドの下――しかし、どこにもリスタは見当たらない。代わりに見つけたのは、僅かに開いた玄関の扉であった。いよいよ、嫌な予感が現実味を帯びてきてくる。朝、両親が家を出て行った時は、扉はしっかりと閉められていた筈だ。それが開いているとなると、やはり出て行ってしまったとしか考えられない。
 意を決して、ゼキアはその扉を押し開き外へと踏み出した。早く、妹を連れ戻さなければ。例え村の中を歩いていたとしても、騎士団と関わらなければ大丈夫だろう。ただし、万が一彼らの不興を買えば無事では済まない。有り金を取られるくらいならまだましな方だ。下手をすれば暴力を振るわれたり、命の保証も無いかもしれない。母から聞いたそんな話が、頭の中に浮かんでは消える。だが、それなら余計にリスタを放っては置けない。たかだか四歳の少女に、そんな難しい話が解るはずもないのだ。かといって、子供だからと容赦してくれる相手でもない。何かあってからでは遅いのである。
「くそっ、リスタ! どこ行ったんだよー!」
 叫びながら、村の中をゼキアは駆けた。さして広い村ではないというのに、なかなかリスタは見付からない。通りかかった村人に尋ねてみても、誰もが首を振るばかりだった。中には早く家に帰るよう忠告する大人もいたが、リスタが見つからないのに従えるわけがなかった。あと探していないのは、宿屋の方だろうか。次の行き先に見当をつけたその時、切り裂くような悲鳴が村に響き渡った。まさに今から向かおうとした、宿屋の辺りだ。
「……リスタ!」
 聞いた瞬間、ゼキアは走り出していた。間違いない、リスタの声だ。己の身の安全など考えていられなかった。あの悲鳴は尋常ではない。いつも転んで泣いたりする時とは違う、酷く怯えた声だった。もし、妹に何かあったら――そう思うと居ても立ってもいられず、ゼキアはがむしゃらに地面を蹴った。見慣れた道を真っ直ぐに抜け、緩やかな坂を上れば宿屋はすぐそこだ。
「リスタ! どこだ!?」
 上りきったところで一度立ち止まり、再び妹を呼ぶ。今度はその姿を見出すのに時間は掛からなかった。幼い少女の泣き声と野太いがなり声が、程近い場所から聞こえてきたのである。慌てて音源を探すと、宿屋のすぐ横の木の傍だった。根元に座り込む黒髪を二つに結った少女は、紛れもなくリスタである。一方、泣きじゃくる彼女を見下ろす男は、見知らぬ人物だった。恐らくは滞在している騎士の一人だろう。胸元に光る金の紋章に、仕立ての良い象牙色の制服。何をしているのかと思えば――腰に佩いた剣に、手をかけていた。
 まずい。そう感じたのさえ一瞬で、咄嗟にゼキアは行動を起こしていた。近くに落ちていた太い枝拾い上げ、男に向かって思い切り飛びかかる。
「ぐあっ! ……この、何しやがる!」
「それはこっちの台詞だ! 俺の妹に何するつもりだったんだ、このやろう!」
 全力で男の肩を枝で叩きつけ、すんでのところでゼキアは妹の手を取った。彼女を背に庇いながら、男の顔をねめつける。何をするか、など口してはみるものの、どうせろくでもない事なのは解りきっていた。一歩遅ければリスタは危なかっただろう。
「……おお、痛い。随分と行儀の悪い子供がいたものだな」
 わざとらしく肩をさすりながら、男はゼキアに向き直った。口ではそう言いながらも、その唇は下卑た笑みを刻んでいる。何が面白いのか、男は気味の悪い笑顔でゼキアとリスタを交互に見た。人を虐げることに喜びを感じる下衆な輩がいる、と母から聞いたことがある。この男もその類なのだろうと、ゼキアは肌で感じ取った。


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