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 考えてみれば、あの時も様子がおかしかったのだ。思い返すのは、初めてゼキアとルアスに出会った日の夜である。もう少しというところで隠し通路にいるのをオルゼスに見つかり、小言を言われながら私室に戻った後のことだ。
「――ルカ様、それは?」
 一通りその日の話を終えて、オルゼスの怒りもようやく落ち着いてきたかと思われた時だった。ようやく気を抜けると安堵したルカに、彼はどこか緊張した面持ちで尋ねた。その視線が捉えていたのは、ゼキアから貰ったお守りの名残だった。突如として迸った炎のお陰で殆ど燃えてしまったが、黒く焦げた欠片が辛うじてベルトにぶら下がっていたのである。
「これ? さっき言った、助けてくれた人がお守りだっていってくれたのよ。持ち主の魔力を感知してどうのっていってたけど……よく自分で作るわよね。私にはさっぱりだわ」
 特に深く考えることもせずに、ルカは簡単な説明を付け加えた。しかし、それを聞いたオルゼスの顔つきが更に険しくなる。
「見せて頂いても?」
「構わないけど……」
 何が彼の関心を引くのか解らぬまま、ルカは焦げた木片をオルゼスに差し出した。今にも崩れそうなそれを慎重に手に取り、オルゼスは目を細めて凝視する。
 まるでその欠片を通して何か遠い景色を見ているような、そんな目だとルカは思った。彼は時折こんな表情を見せることがある。それが何故なのか聞いてみたこともあったが、オルゼスはあやふやに答えを濁すばかりだった。彼とて、触れられたくないことの一つや二つはあるのだろう。そう思ってここ最近は気にしないようにしていたが――このお守りの何が、オルゼスの琴線に触れたのだろうか。
「……貧民街の青年が、これを作ったと?」
 声を掛けられずにいたルカの耳に、オルゼスの疑問が響いた。我に返ったルカは、慌てて首を縦に振る。
「え、ええ、そう言ってたけど」
「そんな所にこんな優秀な魔法師がいたとは驚きですな。物に魔力を定着させるのは、繊細で非常に難しい技術だと聞きますゆえ」
「そうなの……」
 オルゼスの言葉を受け、ルカは助けてくれた二人の顔を思い浮かべた。確かに、そうなのかもしれない。ゼキアが生み出した炎の迫力は凄まじかったし、ルアスはたちどころにルカの傷を癒してしまった。お守りの説明をしていた時の口振りからして、主に製作を行っていたのはゼキアだろうか。しかし、彼が優秀な魔法師というのが今一つしっくりこない。なぜだろうかと思考を巡らせて、ルカは一つの事実に思い当たった。単純に、剣を振るう姿の方が印象に残っていたからである。
「なんだか、剣を使ってる方が印象に残ったからピンとこないわね。たぶん彼、ルガート流だったのよね。それで気になっちゃって。珍しいわよね、はっきり見てたわけじゃないから今度聞いてみようかと……」
 そこまで言葉を続けて、ルカはオルゼスの表情が曇り始めていることに気が付いた。彼は何事かを小さく呟いたようだったが、その声はルカの耳までは届かない。
「……オルゼス、どうかした?」
 声を掛けると、オルゼスは我に返ったように顔を上げた。首を傾げるルカに、彼はただ静かに頭を振る。
「いいえ、何も。少しぼうっとしてしまって……私も歳ですかな」
「……ふーん」
 何もないという顔ではないだろう。そう喉元まで出かかっていた疑問をどうにか飲み込み、ルカは適当な相槌を打った。聞いたところで、彼はきっと答えないだろう。今までもずっとそうだったのだから。
「では姫様、私はそろそろ。どうぞ早めにお休みください」
 ルカが早々に諦めたのを見てか、オルゼスは退出の為に扉の前へと引き下がった。ルカにも、これ以上引き留める理由もない。
「解ってるわよ。おやすみなさい、オルゼス」
 どこか釈然としないものを感じながらも、ルカは素直にオルゼスを部屋から送り出した。
 ――もしもこの時食い下がってオルゼスを問い質していたなら。あるいは、ゼキアの名前をはっきりと告げていたなら。ルカは今、こんなに沈んだ気持ちを抱えずに済んでいたのかもしれない。


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