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11


 彼と街を歩くのは、学院を出てからの期間を差し引いても、随分久しぶりのことである。まだ小さい頃に時折手を引いて連れてきて貰ったものだが、ルアスが成長するにつれてその機会も減っていった。こうしていると昔に戻ったようで、少し懐かしい。
 ――しかし、そんな心地好さを壊してくれたのは、他でもないシェイドであった。
「それにしても、心配していたんだよ。何も言わずにいなくなってしまうし、居所も判らないし」
 ゆっくりとした歩調で道を行きながら、シェイドは言う。何気無いように振られた話題であったが、ルアスはこれに僅かばかりの不快感を覚えた。シェイドが恩師であり、ルアスが信頼している人物であることに違いはない。しかし、一方的にルアスを追放したのは学院の方である。元はといえば己の実力の無さが原因であるし、最終的な判断を下したのはシェイドではないかもしれないが、今も学院に所属する人物にその台詞を言うのか。流石のルアスも反発するというものである。
「そんなこと言って、突然追い出したのは学院の方じゃないか」
 あの時ゼキアに助けて貰わなければ、今頃どうなっていたことか。思うままを口にし憤慨すると、シェイドは慌てたように頭を振った。
「そうじゃないんだよ。君が退学の話を聞いたのはエルシュからだろう?」
「そうだけど……」
 戸惑いながらも、ルアスは頷いた。エルシュ、というのは、共に学んでいた一つ年下の友人の名だ。劣等生のルアスとは違って彼女は魔力も強く、多様な魔法を使いこなす秀才である。しかしそれを鼻に掛けることもなく、寧ろ常にルアスの後ろに隠れているような内気な少女だった。そんな少女に厳しく追放を言い渡された事を思い出し、ルアスは苦々しく顔を歪めた。何を隠そう、彼女の魔法で強制的に学院から放り出されたのだから。しかし、今更それがどうしたというのだろうか。
「どうやら講師が勘違いをしていたようでね。他の学生の話がルアスのことと掏り替わって、それがエルシュの耳に入ったみたいなんだ。だから本当は退学でもなんでもないんだよ」
「……え?」
 シェイドから語られた突拍子もない内容に、ルアスは言葉を失った。勘違い、と言ったか。退学を告げたエルシュは、鬼気迫るような、思い詰めたような、見たこともない険しい表情をしていた。唯一の友人にもついに見限られたかと、己の不甲斐なさを悔いたというのに――それの発端が、勘違い。
「え、勘違いって……そんなのってありなのー!?」
 発覚した事実のあまりの馬鹿馬鹿しさに、ルアスは人目も憚らずに叫んだ。そんなことがあっていいのだろうか。仮にも王国最高峰と謳われる学院だというのに、間抜けすぎるのではないか。様々な疑問や怨言、学院を出てからの苦労など様々なものが脳内を駆け巡るが、最終的には大きな溜め息を吐くことしかできなかった。
「ああもう、なんなんだよ……」
「すまなかったね。そんなことだから私達も君を探していたんだよ……だからね、ルアス」
 百面相の後に項垂れたルアスに苦笑していたシェイドだったが、不意にその目に真剣な光が宿った。それを見て、ルアスも自然と丸めていた背中を正す。昔から飄々とした印象を受ける男ではあったが、この瞳は大切な話がある時のものである。その度に居住まいを直す習慣が、未だに身体に染み付いていたようだ。
「学院に戻っておいで。今からでも遅くないよ。これでも、私は君の力を買っているんだよ」 


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