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10


 咄嗟にそれを振り払い、ルアスは堪らず叫び声を上げた。それでも正体を見極めるべく、飛び退くように後退りながら振り返る。しかしルアスの目に飛び込んできた姿は、予想とは大きく異なるものだった。
「あ、れ……?」
「やぁ、驚かせてしまったね」
 拍子抜けしたルアスの呆けた顔を見て、その人物は小さく笑った。化け物などではなく、人間。それも、ルアスがよく見知っている人物だった。
「久しぶりだね、ルアス」
「……シェイド!?」
 驚きのあまり声が裏返っていたが、それを気に留めることもなく男の名を呼び駆け寄った。思わぬ再会に、胸を躍らせずにはいられなかった。学院を出てから彼と会う機会も無かったが、変わった所は一つとして見受けられない。昔から好んで着ている茶色いコートに、ろくに長さも揃えていない漆黒のざんばら髪。同じように真っ黒な両眼が前髪に隠れてしまっているのも相変わらずだし、柔和な笑みを浮かべる口元も記憶に違わぬものだった。
「シェイド、こんな所で会うなんて! 学院の仕事は休み? 講義のない時でも部屋に籠りきりだったじゃない」
「私だって、外を出歩くことくらいあるよ。作業も一段落したところだったしね」
 ルアスの言葉に、シェイドは苦笑で返す。とは言っても過去に見てきた彼は薄暗い部屋で何かに没頭していることが多く、こうして日の下で話しているのは不思議な気分だった。
 シェイドは、ルアスがマーシェル学院で過ごした時代の恩師である。魔法の研究者、兼講師として学院に招かれている人物で、ルアスの知識や魔法の技術の多くは彼に教わったものである。ルアスの才を見て最初に学院に連れてきたのも彼なのだという。あまりにも幼すぎた時の話で記憶もあやふやだったが、それを疑ったことはなかった。物心ついた頃から彼に様々なことを学び、ルアスはシェイドに育てられたも同然なのである。兄のような、と言うには少々歳が離れていたが、ルアスにとって家族に等しい人物だった。
「そういえば、ルアスは買い物かい?」
 ひとしきり昔を懐かしんだところで掛けられた言葉に、ルアスは急速に現在の状況を思い出す。昼食と、ゼキアとルカが心配だ。
「ううん。用事が終わって帰らなきゃいけないとこだったんだけど……」
 久しぶりに出会えた知人と話は尽きなかったが、いい加減に戻らなくては。しかし名残惜しさから語尾が曖昧に濁る。
「じゃあ、近くまで送って行こう。君一人で歩いてたら、悪い人に絡まれそうだし」
「……そんなに僕って、そういうのに狙われ易そう?」
 まぁね、と笑うシェイドに、ルアスはがっくりと肩を落とした。ルアスの心境を察しての申し出なのは解ったが、付け加えられた言葉が余計である。昔からの顔馴染みにまで言われてはルアスも形無しだ。だからといってそれが断る理由になる筈もなく、二人は自然と並んで歩き始めた。


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