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 ルカの反論を即座に切り捨て、ゼキアは彼女の手から芋を取り上げた。続いて、無言で手を差し出す。ルカは数度目をしばたかせた後、渋々とナイフをゼキアの手へと返した。恐らく、野菜の皮剥きなどやったことが無かったのだろう。流石は良家の令嬢である。そもそも任せようと思ったのが間違いだったのだ。
「全く、出来ないなら最初から言うんじゃねぇよ」
「う……出来ると思ったんだけど、やってみたら意外と難しかったのよ」
 どうやら観念してくれたようではあるが、それでもルカにこの場を立ち去る選択肢は無いようだった。戸口横の壁際に落ち着くと、そのままゼキアの作業を観察し始める。その視線が多少煩わしく感じられたが、邪魔をしないのであれば、とゼキアは放っておくことにした。
「……ねぇ、ゼキアはやっぱり貴族が嫌い?」
 だが手は出さずとも口は出してくるようで、さほど間を置かずに背後から質問が投げ掛けられた。それも、答えるまでもない愚問である。
「そりゃあ、な。貧民街の人間で好きな奴がいると思うか?」
 作業をしながら、ゼキアは淡々と答えを返した。芋の処理が終わり、次は葉物の野菜を刻んでいく。
「貴族というか、国の役職に就いてる奴全般な。本来なら民を守る立場の筈なのに、完全に腐ってやがるからな。重税に苦しめられた挙句、行き場を無くした連中も多いんだ。嫌われるのは当たり前だろ」
「……そっか。やっぱり、そうよね」
 どんな言葉を期待していたかは解らないが、ルカはそう呟いたきり神妙に項垂れ黙り込んだ。噛み付いてこないだけ、以前よりは成長したと思うべきなのだろうか。
 ――決してその姿に心動かされたというわけではないが、ふとゼキアは頭に浮かんだことがあった。ひっそりと持ち出していた、とある物のことである。向こうの調子に飲まれて危うく失念するところだったが、今思い出したなら丁度いいとポケットをまさぐる。
「……それに、害意が無くても色々と首を突っ込んで危険な目に遭いたがる変人もいるしな。お前みたいな」
 言いながら、取り出した物をルカ目掛けて放り投げた。一瞬呆けたような顔をしたルカだったが、すんでのところでそれを手の中に受け止める。
「やる。あまり借りを作ってばっかりなのも癪だからな」
「……これって」
 渡された品物を見たルカが、軽く目を見張ったのが判った。彼女の手にあるのは、いつだかに手渡した『お守り』の改良版である。菱形の木片に、穴を開けて通された赤い紐。基本的な形は変わらないが、表面に彫られた模様のいくつかは以前と違うものになっていた。あれから試行錯誤を重ねた結果、より効果が安定するように組み換えたのである。前回のように持ち主を焦がしかけることもない筈だ。厄介事に関わりたがる彼女に渡しておけば試用の機会もあるだろうし、こちらにとっても好都合である。
「これをくれるということは、つまり私に何かあったら助けてくれるのね?」
「気が向いたらな」
 ぶっきらぼうに答えると、ルカは心底嬉しそうに微笑んだ。その笑顔がどうにもむず痒く、ゼキアは目を逸らして鍋に食材を放り込み始めた。そういった意図じゃないだとか、お前はただの実験台だとか色々と言いたいことはあったものの、早々に会話を打ち切りたくて黙り込む。その後ろで声を殺して笑うルカが忌々しい。


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