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 店、とは言うものの、『ライトランプ』の日常は商売をしているとは言い難いものだった。
 まず、客が来ない。時折近隣の住人が顔を出すものの、大抵は冷やかしか雑談をしに来るだけ。何か買っていくとしても、物々交換や値切られて負けてやることも多かった。赤字になれば少ない貯金を崩すか、日雇いの仕事を探す。そんな日々だ。ルアスなどは何かと心配していたが、ゼキア自身はあまり気にしていなかった。ゼキアにとってはこれが平穏であり、金銭面で辛いと思うことはあれどそれなりに満足していたのである。店先でぼんやりしたり、時々子供達の相手をしたり、最近やって来た居候の世話を焼いたり。そういった何気ない情景が続くのが、ゼキアの何よりの望みだった。
 ――ただ、最近になってその日常を脅かす要素がひとつあった。
「こんにちは! ゼキア、ルアス、いる?」
 扉が開く音と共に響いた声を聞き、ゼキアは咄嗟に顔を明後日の方向に背けた。平穏を乱す元凶が、今日もやって来たようである。
「あ、ルカいらっしゃい……って、どうしたの? その荷物」
 こちらの心境など知る由も無いのだろう、暇だからと掃除に勤しんでいたルアスが笑顔で訪問者を出迎える。視線だけを動かしてそちらに目を遣れば、丁度その人物が中へ入ってくるところだった。視界を覆うほど大きな紙袋を抱えたルカは、それを避けるように顔を見せて苦笑する。
「それがね、ここに来る途中で市場に寄ったら色々貰っちゃって……だからお裾分け!」
「お裾分けって、これ全部!? うわっ、ちょ……ゼキア!」
 狼狽えるルアスにルカは有無を言わさず袋を押し付けた。荷物はその見た目に違わず、相当な重量らしい。よろけたルアスに助けを求められ、ゼキアは仕方なしに重い腰を上げた。
「お裾分け、って量じゃねぇ気がするけど?」
 今にも転びそうなルアスから荷物を取り上げ、溜め息混じりにルカに声を掛ける。袋の中を覗いてみると、みっしりと詰め込まれていたのは新鮮な野菜や果実である。お裾分けというよりはルカの善意の押し売りのように感じるが、彼女は肩を竦めてゼキアの疑問をはぐらかした。
「どうせ私じゃ食べきれないし、いいのよ」
「……本当に物好きな奴だな」
 言いながら、ゼキアは荷物を仕分けるべく近くのテーブルに広げ始めた。腑に落ちない点は多々あるものの、取り敢えずは受け取って置くことにする。ギリギリの生活をしている以上、食料の差し入れが有り難いのも事実だ。こういう所ではとことん貧乏性を発揮してしまうのが悲しい。
「あ、ルカ、そういえばね――」
 黙々と荷物を取り出していくゼキアを尻目に、残された二人は何やら談笑し始める。これ幸いとルカの相手をルアスに任せ、ゼキアは目の前の作業に没頭する事にした。
 先日の一件以来、ルカはすっかりライトランプの常連客となっていた。客とは言っても物を買いに来るのではなく、今日のように手土産を携えて喋りに来ることの方が圧倒的に多い。さながら、友人の家に遊びに来ているかのような調子である。ルアスなどはすっかり打ち解けており、随分親しげに会話するようになっていた。それもあってかなおのことルカは店に入り浸り、自分の家だというのにゼキアは非常に居心地の悪い思いをしている――というのが、ここのところの近況である。


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