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「そりゃあお優しいことで。で、結果は?」
「……散々ね。結局、私は何もできないんだわ」
 自棄気味に吐かれたルカの台詞を聞き、ゼキアの胸中を諦念が占拠していく。そうだ、どうせ何も変わることはない。
「……どうすれば、いいのかなぁ」
「さぁな、俺に聞くなよ。好きにすればいいだろ」
 現状が続くだけなら、事を荒立てることなく過ごせればそれでいい。そう思っているからこそ、深く考えることもなくルカに適当な言葉を返した。何をしようが同じなのだから、関係ない――そういった、投げ遣りな気持ちを込めて。しかし、それは意外な方向へ彼女の心を動かしたようだった。
「好きに、ねぇ……」
 そう繰り返しながら、ルカは肩を落とした。その横顔は塞ぎ込んでしまったかのようにも見えたが、やがて顔を上げたルカはきっぱりとこう言った。
「うん、やっぱり解り合えるようにしたい。その為に何かしたいわ」
「……楽観的というかなんというか、本当に懲りない奴だな」
 まだ、そんなことを口にするというのか。ルカの発言に呆れ返り、ゼキアはひっそりとそうごちた。それを耳聡く聞き付けたらしいルカが、鋭くゼキアを睨む。
「諦めたら何も変わらないままでしょ! 私だけじゃどうにもならなくても、私が知って誰かに伝えれば変わることもあるかもしれないじゃないの! だったら行動するわよ!」
 ――綺麗事を言うな。そう一蹴してやろうと思ったのに、何故かゼキアの喉は音を発してはくれなかった。ルカの視線が、あまりにも真摯にゼキアを射貫いていたせいだ。そこには悪意も偽善も無い。その瑠璃色の瞳は僅かな濁りさえも見せずに輝き、ひたすらに真っ直ぐな感情をゼキアに伝えていた。彼女は、至って本気だ。認めたくなくても、それが解ってしまった。
「そういうことだから、相互理解を深めるために貴方のお店にもまたお邪魔するわ。よろしくね」
 たじろぐ間にも、ルカは何やら勝手な事を口にする。
「……迷惑だ」
「さぁ、答えも出たことだし帰りましょうか」
 ようやく絞り出した声も、まるで無視である。流石に苛立ちを覚えた直後、ルカの腕に滲んだ血を見つけてゼキアは顔をしかめた。
「……傷」
「え?」
「怪我、したんだろ。仕方ないから寄っていけ。ルアスも戻ってるだろうし」
 相手に乗せられているようで面白くないが、怪我をさせたままでも寝覚めが悪い。それだけ告げると、ゼキアは目線を逸らして歩き始めた。背後で小さく笑う気配がしたが、振り返ることはしなかった。
「そうさせて貰うわ。あ、そういえばさっきの姉妹の名前ね」
 半歩後ろを歩きながら、ルカが思い出したように口を開いた。
「遠い国の言葉でね、“希望”と“願い”って意味なのよ。素敵な名前を貰ったのね……きっとあの子達だって、何も持ってないわけじゃないと思うわ」
「希望と願い、ね……」
 二人の少女を思い浮かべながら、ゼキアは小さく繰り返した。その名の意味を噛み締めながら思う――まだ、自分の中にもそれは燻っているのだろうか、と。


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