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 先導するようにユイス達に背中を向けながら、レニィは語り始めた。一言とて聞き逃すまいと、ユイスは彼女の言葉に集中する。きっと何もかもが得難い情報であるはずだ。人々の記録には残されていない歴史の片鱗が、精霊王の口から真実味を帯びて明らかにされていく。妄言ではなく、ヴァルトという王は実在していたのだ。
「その頃は、まだ今より人と精霊の距離が近かったの。エレメンティアも多かったし。盛んとまではいかないけど双方の交流はそこまで珍しくなかったのよ。親しい関係を築いてた奴らもいたみたいだし」
 言われて、その光景を想像してみる。例えば今歩いているような森の中で、或いは川べりや、時に街の中で、人と精霊が当たり前のように言葉を交わしている。他愛ない話に笑いあったり、些細なことで喧嘩をしたりする。そう、今も人間が友と語らうのと同じように――それは、ある種の異様さも感じるものだった。現代の感覚では、精霊は崇め、敬い、祈るものであって、存在を疑いはしないがどこか遠い世界の住人だ。エレメンティアであってもその感覚に大きな違いはないだろう。レイアのように精霊に好かれる者も中にはいるだろうが、彼女は特例中の特例であって参考にはならない。
「なかなか信じがたい光景だな。今の精霊達は、どちらかというと人を敬遠しているように感じるが」
「……別に嫌ってるわけじゃないの。単に、エレメンティアの数が減って交流の機会も少なくなったから。実際、あんた達は随分仲良くしてるじゃないの」
 レニィの指摘に、反射的にユイスはイルファを見遣る。エルドの件が後を引いているのか、単に話の内容に興味がないのか、彼はレイア頭上に陣取ってぼんやりと宙を眺めていた。改めて考えれば、彼との付き合いもそこそこの長さになる。共に旅をすることになったのは成り行きだったとはいえ、共有する時間が長くなれば愛着も増していくものだ。互いにすっかり砕けた態度になっている。レニィに対してもそうだ。
 不意に、海底の神殿でのやり取りが思い出された。精霊も人も同じ時を生きていた、とノヴァは言っていた。あの時の話と合わせるとまた疑問も出てくるが、かつて人と精霊が違和感なく共に過ごしていたのは確かなのだろう。
 表情からユイスが納得したと判断したのか、レニィは話を再開した。
「そんな中で、シルはひどくヴァルトに肩入れしていたの。それこそ、精霊王という立場を忘れてるんじゃないかってくらい。まるで恋人だった、って聞いたの」
「恋人……」
 小さく、口の中で繰り返す。親愛の情が育つなら、種族を超えた恋愛も有り得たのかもしれない。そこでユイスは、とある可能性に気が付いた。
「つかぬことを聞くが、精霊と人との間に子は成せるものなのか?」
 ヴァルトとシルが恋仲であったなら、エルドはその末裔ではないのかと思ったのだ。それならば血の記憶、というヴァルトの言葉も説明がつくし、精霊の血ゆえにクロック症候群の症状が変則的というなら得心もいく。しかし、レニィは緩く頭を振った。
「――基本的には、有り得ないことなの。あの少年は確かに珍しい状態ではあるけど、そもそも時間の秩序が崩れるような事態なんだから別におかしなことはないの。ヴァルトには妻子がいたらしいから、きっとその末裔ね。シルとの仲も、あくまでそれぐらい親しかったって話なの。ただ、与えた加護は相当なものだったみたいね」
「そう、なのか」


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