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3

 精霊王が否定するならそうなのだろうと、ユイスは頷いた。しかし本人たちの感情はそれとはまた別のものである。王族ならば結婚に愛情が伴わないのも珍しい話ではないし、正妻の他に愛人を囲っているのもよくあることだ。その立ち位置に風の王を当てはめるのは些か不敬が過ぎる気がしたが、二人の間に特別な絆があるのは間違いないだろう。でなければ、これほど長い時をてまで共にあろうとはしないのではないだろうか。だが、ユイス達にとって重要なのは彼らの関係性そのものではない。
「――そんな加護があるとは、殆ど無敵だな」
 無意識のうちに、そんな言葉が口をつく。声に出すとなおさら絶望感が増していくようだった。今回はレニィに助けられたからよかったものの、次も運良く助けがあるとは限らない。たとえレニィがそうしたいと考えてくれたとしても、精霊王という存在が軽々しく動けるものではないのは端々から窺える。時柱を取りもどすのに、ヴァルトとシルとの対立は避けられないだろう。どう対策すればいいのか、見当もつかない――そう思考に沈みかけたユイスの意識を引き戻したのは、レニィの一言だった。
「……そうでも、ないのね」
 ともすれば吐息に紛れてしまいそうな呟きだった。だが微かに見えた光明に、ユイスは弾かれたように顔を上げた。
「と、いうと?」
「シルは、もう寿命だから。力も弱まってるの」
「寿命……」
 告げられた内容の違和感に、思わず言葉を繰り返す。精霊の寿命など、意識したこともなかった。彼らは人より遥かに長い時を生きる。その死について言及した人間を、ユイスは知らなかった。あまりに流れると気の早さが違うからか、或いは精霊という存在があまりにも遠いのか。そもそも彼らに死という概念が存在するとさえ考えないのだ。
「まぁ、人で言うところの死とは少し違うかもしれないけどね。シルは今の王達の中では一番長く生きたから、もうじき消える。代替わりするのね。とっくに次の王となる者も生まれてる筈なの。だからこそあんな暴挙にも出たんでしょうね」
 淡々とレニィは語る。この短時間で彼女から知りえた情報は、下手をすれば歴史を塗り替えてしまうのではないだろうか。そう思うと落ち着かなかったが、ユイスは努めて平静を保ちながらレニィに問い返した。
「勝機はある、ということか。とはいっても相手はあくまで精霊王だろう。念のため訊くが、レニィのことは頭数に入れていいのか?」
「それは無理ね。当代の王同士が本気でぶつかろうものなら、自然の均衡を著しく乱してしまうもの」
 間髪入れず、レニィは断言した。やはりか、とユイスは嘆息する。ある程度覚悟していたこととはいえ、彼女がいないとなるとこちらの手札はかなり限られてくる。いくら弱っているといっても、シルの力は先だって目の当たりにしたばかりだ。時間を掛けたくはないが、無策に突っ込むわけにもいかない。どうすべきか、と考え込みそうになったところで、レニィが何度目になるか分からない衝撃的な事実を口にした。
「そう落ち込む必要はないの。少なくともそこの炎の小さいのは味方なんでしょう。それ、次の王なのね」
「……は?」
 反射的に上がった短い声がレイアと重なる。ここまで発言を控えていた彼女でも、これには驚愕を隠せないようだった。イルファが共に来ると決まった時、そんな説明が一言でもあっただろうか。
「名前を持つのは王とその後継者だけなの。だからヴァルト達も警戒して芝居を打ったんでしょ」
 ヴァルト達とのやり取りを思い返す。エルドを人質にしたり、こちらを分散させようとしたり――言われてみれば、確かに違和感があることも多かった。その原因が、まさかイルファにあったとは。


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