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6

 言いながら、イゴールは横にもう一枚地図を並べた。こうして比べると海へ突き出ていた岬は消え、沖の島々も無くなっている。昔の地図がどれほど正確なものかは分からないが、それにしても大きな地形の変化があったことは確かだ。
「全て海に沈んだと……? いったい、なぜ」
「分かりません。精霊の怒りを買った、等とも言われていますが、詳しくは」
「……そうですか」
 応えながらも、ユイスは密かに落胆した。結局、自分達で調べた以上の情報は無いということだ。だがそれも仕方のないことである。そもそも架空の物語を追い掛けて来たようなものだ。実在するらしいと分かっただけでも良しとするべきだろう――そう思い直したところで、イゴールから意外な申し出があった。
「それらしい資料も他に見当たらないのですが、実は遺跡のものと思われる残骸を引き揚げた漁師がおります。船の用意もありますので、案内させましょう」
「それは――有り難いですが」
 これには驚かざるを得なかった。船を用立てられれば、と考えていたことは確かだが、こうまで先回りして手配されているとは思わなかった。この神殿で話したことと言えば、神殿の関係者でクロック症候群について調べている、という程度である。これが事情をよく知るルーナの神殿なら分かるが、此処では詳細な身分さえ明かしていない。普通なら門前払いでもおかしくないくらいだ。こうも順調だと、かえって気味が悪くさえある。
「……なぜ、そこまで我々に協力を? 怪しいとは思わないのですか」
 訝しげな表情を出来るだけ隠しつつ訊ねたその返答に、ユイスは更に瞠目した。
「全ては精霊王の思し召しです。近々旅人が訪れるゆえ、その目的を果たせるよう助力せよ、と。私を含め複数のエレメンティアが声を聞いております。王の使いを名乗る精霊も現れ、あなた方を迎え入れるようにと。精霊に使える身として、成すべきことをしたまで」
 きっぱりと告げながら、イゴールは低頭した。それでもこれほどまで徹底しているのは、彼等の信心深さゆえか――平伏さずにいられぬほど、精霊王の言葉が強いのか。
「王の使い……レニィか」
「つまり、協力してやるから神殿に来いってことだったんですね」
 レイアの解釈に、ユイスも同意する。だが、どこか釈然としないものが胸に残った。炎と地、今までに二人の精霊王との邂逅を果たしているが、そのどちらも友好的だったとは言い難い。最終的にはどうにか助力を得ることに成功してはいるものの、相応の苦労を強いられている。今回は行動を起こす前に制裁が下るのかと身構えていたというのに、まさか積極的に助け船を出してくれるとは。これまでの経験から考えるといかにも不自然な気がしてならなかったが、わざわざ精霊が人を計略に嵌める理由も思い付かない。
「……如何なさいますか。出立されるのであれば、すぐにでも準備を整えさせますが」
 顔色を窺うようにしながらも、イゴールが促す。精霊から賜った使命を蔑ろには出来ないのだろう。その心境を思えば、断ることは躊躇われるが――。
「……行ってみませんか? 近くの精霊に訊けば、何か分かるかもしれませんし。今度は私の声もちゃんと届くと思うんです」
 黙考するユイスに代わって答えを出したのはレイアだった。彼女の言うことにも一理ある。人の歴史には残っていなくても、精霊達なら知っているかもしれない。トレルの森では叶わなかったが、水の精霊達が敵対しないなら彼女の力も存分に活かせるだろう。
「……それも、そうだな。イゴール殿、よろしくお願いします」
 レイアに頷きそう告げると、イゴールはどこか安堵したように頭を下げた。


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