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「答えは出した。それしか方法がないというなら、レイアを時柱とするしかないだろう。だが」
 一度そう区切ると、ユイスは視線を上げた。どれほど見つめても時柱となった少女と目が合うことはない。彼女は何を思ってここに来たのだろう。時柱の歴史を正しく知っていたのだろうか。だが、それを考えても詮無いことだった。
「……時柱とするとしても、レイアがこんな風に閉じこめられる必要はないはずだ」
 一拍置いて続いた内容に、ノヴァの眉が微かに動いた。メネの方には変化がない。しかしユイスは、自分たちが得た知識は誤ったものではないと確信した。
「その結晶と、中に取り込まれた少女は無理矢理に作り出されたものだ。『現在』の時柱は、普通の人間と同じように過ごすのが本来の姿だ。そうだろう?」
 ――時は移ろうもの。ゆえに現在の時柱はその時代の人間から選ばれる。そう言ったのはノヴァだった。手掛かりは初めから示されていたのだ。
 地下遺跡の書庫には、まさにユイス達が求めていたものが残されていた。大陸統一以前、今よりも精霊、そして時柱の存在が人の近くにあった時代の記録である。それらによれば、移ろい続ける『今』という時の時柱は、柱となる者は時と共にあらねばならない。つまり、時の流れの中で生きる普通の人間と同じ状態であることが正しい姿なのである。『過去』のノヴァ、『未来』のメネとは些か事情が異なるのだ。『現在』の時柱となった者は時柱のための神殿――恐らくは今ユイス達が立つ神殿に居を移し、俗世と関わることは許されなかったという。しかし、巨大な結晶についての記述はどこにも見当たらなかった。ごく僅かではあるが、時柱に選ばれた人間と接触した者の記録もあった。彼らは物を食べ、会話をし、涙を流していた。間違っても結晶に閉じ込められ物言わぬ人形になったりしてはいない。生きて時柱としての使命を全うしていた。古と今とでは、時柱の在り方が変質している。それがユイス達が行き着いた真実の一端だった。
 当然、疑問は次の段階へ移っていく。なぜ現存する時柱があのような状態なのか。その起点までは史料に記されてはいなかったが、ある程度推測することは出来る。その一助となったのはヴァルト達の存在だった。現在の旧へレスは不毛の土地で精霊に嫌われた地とまで言われている。おかしな話だ。在りし日のへレス王国とその王は、精霊王の一人――シルに類を見ないほどの寵愛を受けていたのである。今に残る史料、そして遺跡で見た幻を思っても、へレスは豊かで強い国だった。なのに今日の地図にはへレスの名残すら見当たらない。
「もし違っているなら否定してほしい。私の予想が正しければ、へレスを滅ぼしたのは貴方たちだろう。時柱としての力を振るい、ヴァルトの娘を奪い取って、その結晶に閉じ込めた」
 彼女たちは精霊とは違う。しかし人知を超えた力を持つのは同じだ。本気で攻撃すれば人の国など瞬く間に潰してしまえるだろう。ヴァルトは彼女たちの怒りを買った責を負い、臣に誅殺された。遺跡で見たのは、まさにこの場面だったのだろう。へレスは混乱に陥り、ノヴァ達の力によって大地は枯れ、急速に滅びの道を辿った。大国滅亡の影響は他国にも波及し、やがて大きな戦へと発展する。それが現在、大陸統一戦争と呼ばれているものだった。調べてみれば、ちょうど時期も重なる。
「戦争に乗じて史料の殆どを燃やしたのも貴方たちだろう。人間をそう仕向けるくらい容易いことだろう――なぜだ? 少なくともヴァルトの娘の代まではこんな生贄めいたものではなかったんだろう。そうせざるを得ない理由があったというなら、それを聞くまではレイアを渡せない」
 そう、重要なのは理由である。レイアが人として一生を終え、かつ時柱としての役目を果たせるならユイスも否やはないのだ。生きてさえいれば、また会うことも出来る。結晶に閉じ込めなければならなくなった原因があるのなら、それを取り除けばいい。それがどのようなものかは分からないが、努力していくことは出来る。上手くいけば、これ以上の不幸を生まなくて済むかもしれないのだ。現時点でユイスが考えられる最善策である。
 しかしそれは、却ってノヴァ達の逆鱗に触れてしまったようだった。


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