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7

「そこは主の軽率さを諫めるところじゃないのか」
 苦笑しつつも、ユイスはティムトの言葉に引っ掛かりを覚えた。神殿の、書架。確かに通常公開していない史料も含めれば数多の情報が神殿には蓄積されていることだろう。ティムトの言うように気が済むまで別の手を調べるなら、他に相応しい場所はない。だが時柱の存在は、始めから存在しなかったがごとく人の歴史から忘れ去られていたのだ。今更現存する資料を当たったところでたかが知れているだろう。大陸統一前、人と精霊がもっと近しかったころの史料が大量に見つかったのでもなければ、あまり意味はない。
 ――へレスの書架には、彼女たちの物語も残っているかもしれないわね。
 不意に、脳裏に誰かの声が蘇る。引きずられるように思い出されるのは去り際のシルの姿だ。そう、これは彼女が残したものだった。
 特に意味も考えず聞き流していたものが、今になって気にかかる。あの時点で彼女との決着はついていた。それまでのしこりも消えて雑談、というようのものでは決してない。なんの脈絡もなく思えるシルの発言は、何を意味していたのだろう。今は亡きへレス王国。荒れ果てた遺跡と化すまえのそこには現代の人間が知りえないような神秘についての資料もあっただろうか――。
「……まさか」
 一つの可能性に気付き、ユイスは呟いた。ありえない、と心中で否定するのと同時に、絶対にそうだ、と直感が告げてもいた。ろくに調査もされず、人目のつかない地にある遺跡。何もない、はずだった。だが例えば、精霊の力で在りし日の痕跡が隠されていたらどうだろう。そうすれば人間には分からない。へレスは風の精霊王の寵愛を受けた国だった。思い出の地を踏み荒らされまいと、シルが細工していたとは考えられないだろうか。だとすれば、彼女のあの言葉は遺跡にはまだ何か残っていると示唆しているように思える。それが現状の突破口に繋がるからこそ、シルは手掛かりを残していいたのではないだろうか。
「おい、どうかしたか?」
 突如押し黙ったユイスの顔を、ティムトが訝しげに覗き込む。その声で我に返ったユイスは頭を振り、前を見据えた。
「ティムト。書架漁りの必要はないが、また少し留守を頼めるか」
 虚を突かれたように、ティムトは目を瞬かせた。しかしそれも一瞬で、やがて口元には不敵な笑みが浮かぶ。
「本当に仕方のない主だ。俺を従者に選んでおいて良かったな?」
「全くだな……ありがとう」
 小さく告げた礼の言葉には応えず、ティムトは腰を上げた。軽く片手を振り、城の中へと戻っていく。恐らくユイスのために諸々の都合をつけに行くのだろう。本当に、いい友人兼従者を持ったものである。
「さて、そうと決めたら俺も急がなくてはな」
 決意を新たにして、ユイスは立ち上がった。都合の良すぎる考えかもしれない。もしかしたら罠なのかもしれない。それでも、まだ希望が残されているのかもしれないならば、最後まで悪あがきしてみよう。ようやく定まった心を胸に、ユイスは急ぎ自室へと向かった。


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