02

「商売になるかどうかは別じゃないか? 儲けも大事だけど、やっぱり人とのかかわりと言うかさ」
「それはおじいさんが決めることで、俺たちが決めることじゃないよ……」
 ぶつくさ文句を言っていると、水飴を練るのに夢中になっていた薫が、練り終えてそれを食べながら言う。
「でも、毎年三千円の商品券を出して、だいたいの優勝した奴が比呂みたいに友達連れて騒いでいくのをよしとしてるんだから、そういうことなんじゃねえの? また来てね、って言ってたし」
「そうかなあ……」
「まあ、あんまり難しく考えるなよ。お互いメリットがあるからやってんだって割り切れって」
 生徒会と駄菓子屋、癒着しているんだっけ。棒状のゼリーを吸い上げながら、そんなことを思い出す。メリット、か。
 メリットという言葉で思い出すのは、秋吉と交わした密約だ。秋吉が私の学園生活をサポートするのと引き換えに、私は彼の女性不信を直すというもの。俺にメリットはあるのか、と聞いてきた秋吉に、私はもちろんあるというふうに答えたような気がするが、果たして約束が果たせているのかは疑問だ。
 けれど、女子大はあっても男子大というものは存在しないし(学部によってはほとんど男子だけという場所もあるとは思うが秋吉はどういうところに行きたいのだろう)、女性と一切まったく百パーセント接点のない職場というのも数少ない。なので、秋吉はどうがんばったってこの先進学などするにあたって女性とかかわっていかなければならないし、そうなったときに男子校であったというハンディをつけてもあまりにも不慣れだとよくないだろう。
「秋吉、あとで俺の部屋おいでよ」
「え?」
 皆が盛り上がっている中、彼の袖を引いてそう言うと、不思議そうに頷く。
 寮に戻ってきて、着替えた秋吉は若干警戒するような目をして私の部屋に入ってきて床に腰を下ろした。私もスウェットに着替えてベッドに座っている。
「どしたの」
「秋吉が、女の子にどんなイメージを持っているのかきちんとヒアリングしておこうと思って」
「はあ?」
 私の経験則から言って、血縁の異性と他人の異性は違う。私には兄や父がいるが、彼らを「男性」だと思ったことはあまりない。もちろん、自分とは性の違う存在であることは理解しているし女性のように扱うことはないが、他人とは扱いが全然違うのだ。なので、秋吉が女は皆姉みたいなもの、と思っているのはもったいないことだし、間違っていると思う。
「まず、お姉さんはいくつ?」
「二十四と、ハタチ」
「ちなみにお母さんはどんな人?」
「そうだな……豪快な笑い方をする」
 まず母親からして女らしさに欠けると思っているような口ぶりに、これは傷が深いなと思う。
「初恋はいつ?」
「小学一年生」
「どんな子だった?」
「なあこれなんか意味ある?」
 早々に飽きたらしい秋吉が質問を投げかけてくる。一方、私のほうではカウンセラー気分でちょっと楽しくなっていたところなので、腰を折られてつまらない。
「大事だよ。秋吉が女の子とこれから先かかわっていく上でとても大事だよ」
「……。同じクラスの、可愛い子だった。赤いリボンのヘアゴムが似合ってて」
「具体的だね」
「ってか、そこしか覚えてないんだ」
 なるほど、印象的なのがヘアゴムだったわけだ。頷いて、次の質問を繰り出す。
「じゃあ、最後に女の子を好きになったのは、いつ?」
「……小学四年生のときかな……そのときはすでに、姉ちゃんたちの理不尽さに圧倒されてたし、家事とか押しつけられてたから、クラスの活発で目立つ女子は苦手で……」
 小学四年生というと五年ほど前だ、上のお姉さんもまだ大学生だっただろう。夜遊びでもして家にいなかったんだろうか。疑問は浮かぶがとりあえず秋吉が話しているので口は挟まない。

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