07

 頭は軽くパニックだった。これからどうすればいいのか、頭の中ではそればかりがぐるぐるとめぐる。とりあえず、スウェットの上も着てしまってから、洗面所に置きっぱなしになっていた秋吉の眼鏡(彼は視力自体はそんなに悪くないがちょっと乱視が入っている。普段はコンタクトレンズを使っているようだ)を持ってそろそろとドアを開けた。そこには、顔を赤くした秋吉が棒立ちしていた。
「はい、これ」
「ごめん……」
 うなだれた秋吉の視線がついと私の身体をなぞって、すさまじく居心地が悪い。
「だ、誰にも言わないでくれるとうれしい……」
「え」
「違うんだ! 俺は違うんだ!」
「あ、うん」
 眼鏡を奪うように受け取って、秋吉はそそくさとドアを開けて外に出ていってしまった。
 ばれた、どうしよう。秋吉が誰かに告げ口したら、きっとそこから真実はざわざわと広がっていってしまう。帰ってきたら、もっと強く口止めしないと。秋吉が他人になにかを言いふらすなんて想像もできないが、事態が事態である。
 とりあえず、秋吉が帰ってくるまでは現実逃避することにする。嫌なことは夢とごっちゃにして忘れるに限る。そう思って横になって目を閉じるも、やはり眠れない。身体は疲れているはずなのに、まったく眠気がやってこない。授業中はあんなに眠たかったのに、先ほどの出来事が相当神経を高ぶらせてしまっているらしい。目が冴えている。
 それでもなんとか寝ようと目を閉じ羊を数えて奮闘していると、ドアがノックされる音が聞こえた。秋吉だろうと思い、少し悩む。口止めしたいが、ようやく眠たくなってわずかに意識がもうろうとしてきているのだ。
「比呂?」
 うとうとと悩んでいるうちにそっとドアが開いて、秋吉が部屋に入ってくる。女子の部屋に無断で入るとはなんたる狼藉。いったい何が目的だ。私は、どきどきと破裂しそうなくらいに音を立てている心臓をなだめなだめて抑えて寝たふりを決め込んだ。
「比呂」
 秋吉の細い骨張った指が頬に触れる。そこで初めて私は秋吉の目的に気がついた。これ、もしかしなくとも寝込み襲われる感じ?
 待て。そりゃあ秋吉はイケメンだし彼氏にしたいかしたくないかと問われればしたいし、でもそれとこれとは少し別というか、展開が早すぎやしないかというか。
 しかし完全に起き上がるタイミング、目を開けるタイミングを逃した。秋吉の指が私の神経を支配する。首筋に下がってきた指に、まずい、と思いつつも目を開けられない。
 するりとスウェットの裾から手が入り込んできた。これはいよいよまずい、目を開けなければ。しかし悲しいかな臆病者の私は目を開けることができなかった。
「……え?」
 え? と、私の胸元を触っている秋吉が不思議そうに吐息を漏らした。この状況でそんな息をつかれたら不安になる。何かおかしいのだろうか、私の身体は。秋吉の指はそのままズボンの中に入る。あ、これは本格的に起きなければ。
「あれ?」
 あれ?
「はあ? どういうこと?」
 いや、どういうこと、はこちらの台詞だ。我慢できずにとうとう目を開ける。起き上がった私に、秋吉がのけぞった。その顔は、何か信じられないものを見ているような表情だった。自分を抱きしめながら上半身を起こしてベッドの隅に後ずさった。
「お、女だって分かったとたん夜這いはよくないと思う!」
「女? 比呂が? 女?」
「え、あれ、さっき見たよね」
「いや、見たけど……女?」

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