03

 思わず、上半身を起こす。毛布がずれて、裸の上半身が露出したのを直して、仁さんの目をじっと見つめる。
 迷いのない瞳。明るい茶色の、優しい目。私をまっすぐに見る、強い光。

「俺はまだ半分だからあれで済んだけど、母さんの飢餓感はたぶんあれじゃ済まないだろうし」
「そう、なのかな」
「たぶんね」

 仁さんが、私の肩を引いて寝かせる。毛布を首までたくし上げられて、仁さんのほうを見れば、寒いだろ、と返ってきた。
 もそもそと少し動いて、仁さんの腕の中に納まる。これが一番、心も体も温かいから。仁さんも、軽く抱きしめてくれて、私はやっぱり満足感に襲われる。
 急に眠気がくる。仁さんの体温は不思議だ。信じられないくらいに温かくて、心地いい。ほかの人とはまるで、温度の次元が違うよう。
 ぽんぽんと背中を叩いてくれる大きな手のひらに、目を閉じる。

「おやすみ」
「ん、おやすみなさい」

 眠りに落ちる少し前、仁さんのお母さまの顔がふと浮かぶ。家に遊びに行けば、いつも幸せそうにお父さまに寄り添って笑っていた。
 時折、英語の絵本を読み聞かせしてくれた。理解はできなかったけど、その声はとても耳によく馴染んで、心地よかった。
 仁さんを生んでくれて、ありがとう。そんな、陳腐な感謝がぽつりと思い浮かんで、一人で笑った。
 私はヴァンパイアじゃないから、たとえ仁さんが先に死んでしまったとしても、きっと生き続けるんだろう。
 仁さんは、自分は迷いなく後追いすると言ったけど、きっと私にはそれはできないし、きっと仁さんも許さない。
 でも、そんなことは考えたくない、今は。どちらかが死ぬことよりも、一緒に生きることを考えたい。仁さんと、これからも一緒に生きていきたい。
 これまでがそうだったように。これからもそうであるように。
 私は強く、願う。



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