01

 空気清浄機の稼働音が静かに響いている。ふと目が覚めた私は、ころんと寝返りを打って、仁さんの腕の中に転がり込んだ。
 
「ん、寝れない?」
「うん、ちょっと……」

 うとうとしかけていた仁さんを起こしたのは、少し罪悪感があったけど、それでも、腕の中は温かい。安心してしまう。
 夜明け前だ。私は普通なら寝ている時間で、仁さんにとってはこれから眠りに入ろうかという時間。

「怖い夢でも見た?」
「ううん」

 なんて言えばいいんだろう、この幸福感と充足感を、どう伝えればいいんだろう。
 悩んで、結局この言葉になる。

「……好き」
「……」

 仁さんが、私の語彙の貧困さを察して喉の奥で低く笑う。あ、馬鹿にされている、と思うけど、それすら心地いいのだ。
 私は、少し眠たい頭で必死で言葉をかき集めた。

「すごい、満足感」
「……」
「これ以上はないってくらいの」
「……俺は」

 顔を上げると、仁さんは何やら考えているようだった。目がうろうろと虚空をさまよっている。ややあって、言葉が紡がれる。

「俺は、美麗を抱いて満たされたことは、一度もない」
「……」

 人の精一杯の告白を簡単に踏みにじってくれる人だな、と思いつつ、まだ続きがありそうだったので、黙っておく。

「美麗を抱くとさ、すごく焦るんだ」
「……」
「もっと欲しいって、際限がなくなって、そんな自分に焦る。何回抱いても満足できなくて、渇きがひどくなって、もっともっと欲しくなる。……男女の差なのかな……」
「……仁さん」
「ん?」
「たらしだね」
「は?」

 不愉快そうに突っかかられて、笑う。それにつられて、仁さんも笑った。

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