09
「ずっと好きだったよ、上谷」
「……」
「好きだったし、俺だけ見てほしいって思ってるし、あと、ちょっとエロい妄想にも使ったし……、抱きしめたいし、上谷が俺しか見えなくなったらいいなって思ってるし、……でも、上谷が俺に笑ってくれるなら、何にも望まないってくらい好きだった」
信じられないくらい恥ずかしい言葉をすがすがしい顔で連発する先輩に、赤面するより先にぽかんとしてしまう。
それから、ちょっと遅れて赤面すると、先輩の顔も赤くなった。
「何その反応。照れるんだけど」
「だ、って、先輩が」
「エロい妄想に使ってスミマセンでした」
悪びれず舌を出した先輩に、ますます縮こまる。
「……しばらく女々しく引きずるけど、かなりすっきりした。ありがとな」
はあ、とため息をついて、先輩が歩き出す。それを慌てて追いかけて、先輩、と声をかける。振り向いた先輩が言い放つ。
「俺は言ったぞ」
「え?」
「上谷も、ちゃんと全部言いたいこと言ってこい」
「……」
この人はどこまで優しいのだろう。
胸の辺りのつかえのようなものが、すうっと溶けてなくなっていく感じがした。私は先輩の気持ちに応えることはできないけれど、その想いには報いたいと強く思った。
「がんばれ」
先輩は、どんな気持ちでがんばれと私の背中を押してくれているのだろう。そう思うと胸が痛い。
でも、だからこそ、私はぶつからないといけないんだ。先輩のために、そして何より、これからの私のために。
先輩は、家の前まで送ってくれた。そして最後にもう一度、がんばれ、と言ってくれた。去っていく背中をじっと見つめて、少し泣きそうになったのを我慢した。
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