01

 学校を休んだ。野乃花から心配するようなお見舞いのメールが入っていたけれど、とても返信する気になれなくて、携帯を放り出した。
 ママは、何かを悟ったのか、昨夜仁さんのところから帰ってきてから部屋に籠城する私に何も言わなかった。ただ、部屋のドアの前で、今日休むの? と聞いてきただけだ。
 昨日のビスケットはとうに消化されているのだろうけれど、おなかは全然すかない。あれから何も食べていない、飲んでいないけれど、涙はあとからあとからわいてくる。
 仁さんには、きっと私という「餌」をなくしても、たくさんの代用がいる。あれだけきれいな顔をしていればどこかで適当に女の人を捕まえられる。そして、私にしたように、優しく抱いて血を吸う。
 その中からほんとうに好きな人を見つけてしまうかもしれないし、もしくはそんな人がもういるのかもしれない。そもそもどうして、仁さんが私を「餌」にしていたのかすら、今となってはよく分からない。狩りは疲れる、そう言っていたけれど、もしかしたらほんとうにただそれだけの理由で、私はほんとうに便利な存在だったのかもしれない。
 ずず、と鼻をすすったところで、携帯が鳴った。ちらっと見ると、篠宮先輩の名前が表示されている。どきっとする。

『窓の外、見て』

 ……まさか。
 通りに面したほうの窓のカーテンを少しだけ引いて外を見ると、そこには部活帰りと思われる篠宮先輩が立っていた。じっと、こちらを見つめている。目が合ったかもしれなかった。
 どうしようかかなり迷ったけれど、私は部屋を出て階段を下りる。ママが、大丈夫、と声をかけてきたのを適当に流して外に出る。
 門に手を置いて、先輩は頼りなく立ち尽くしていた。私を見て、息を飲む。

「……上谷、その顔」
「あ、……違うんです」

 一日ぶりに出した声は、泣き疲れて掠れていた。なんて言ったらいいのか分からなくて、何を言っても泣いてしまいそうで、それを隠そうと笑う。

「先輩の、言ったとおりだったんです」
「……え?」
「私、大事にされてなかった」

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