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若しも


「トウヤ!」

 森の近くに野盗の巣窟があるらしいとの情報を得たフラットの仲間たちは、一稼ぎするために野盗たちを捕まえに出ていた。相手に外道召喚師がいたことは想定外で、やつの召喚術をまともに食らった仲間たちは散り散りになっていた。

 野盗たちも誰がその場の中心にいたのかは分かっていたようで、トウヤは真っ先に囲まれた。召喚術をうまく防いだクラレットが彼に駆け寄る。

「クラレット」

「私から離れないでください」

 背中合わせになる。
 クラレットは杖を掲げて半魔の水晶を召喚し、そのまま次の召喚を始めた。その動作を見たフラットの仲間たちも、同じように水晶を召喚する。

「召喚師のほうががら空きだ! 行くぞ!」

 野盗の一人が短剣を振りかざして叫ぶ。4、5人の野党がそれに賛同してクラレットに飛び掛かった。

 トウヤは長剣を構えて、素早い動作で召喚術を放つと同時に辺りの野盗をなぎ倒す。

「派手にやる気だね」

「はい。水晶だけは壊さないでください、あなたにも少し痛い術を使いますから」

「……魔臣ガルマザリアか!」

「いきます」

 彼女が少し微笑んだような気がした。しかし、肩口を熱い何かが駆けたのと同時に、その表情は歪んだ。辺りに満ちていたサプレスの魔力も揺らぐ。

 トウヤは一瞬遅れてやってきた痛みに肩を押さえて膝をつく。ぬるりと血が流れた。地面には野盗の投げた短剣が転がっていた。

「伏せて」

「クラレッ……」

 刹那、彼の視界は白に染まった。






 目を開けると、そこには、長髪の少女が一人佇んでいた。一帯の地形はいびつになり、何人もの野盗たちが気絶している。遠くの仲間たちも少しばかり目を回しているようだった。

 頭が痛い。
 トウヤは半魔の水晶へと目を向けた。きちんと作用したのだろうか。

 ぱあ、天使エルエルの光に包まれる。

「すみません。少しコントロールし損ねてしまいました」

「僕は平気だよ。だけど、水晶が……」

 彼の指差した先にふわふわと浮かぶ八面体のそれを見たクラレットは、驚いたようだった。

 何せひびが入ってしまっているのだ。彼女が触れると、それはいとも容易く砕けた。地面に散らばる水晶の欠片が光を反射し、きらきらと輝く。

「……野盗を連れて帰りましょうか」

 ぐるりと辺りを見回したクラレットは、最終的にそう言って仲間たちを起こし始めた。それをぼんやり見ていたトウヤには、彼女が一人一人に謝罪する声もきちんと聞こえた。

 僕の自惚れでないのなら──。

 ふらりと立ち上がって、彼女のそばへ歩いていく。

「今度からは、気を付けるよ」

 苦笑いで済まされるだろうかと思いながらも、最良の表情など思い付きもしなかったので、彼は困ったように笑った。





若しもあなたが死んでしまったらなんて考えたくもない






パートナーは主人公の怪我に対してのみ過敏、というイメージがあります。いや、好きなひとだからですね。多分。
クラレットを変えたのはトウヤで、トウヤを変えたのはクラレット。もしクラレットがズタボロになったとしたら、キレた深崎さんを止められるのはガゼルくらいしかいないと思います。




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