ソファに寝転がって、天井を見上げる。そこに、青い猫がばさりと割り込んできた。

「この辺かな」
「…おー」

部屋の四隅から真ん中辺りを目掛けて、ハッピーはふさふさした飾りを付けていく。ナツは彼の尻尾を指差した。

「もうちょっとそっちじゃね?」
「こっち?」
「あ、やっぱそっち」
「え、こっち?」
「いあ、そっち」
「……ナツ?」

棒読みの指示に気付いたか、ハッピーは疑わしげな眼差しを向けてきた。誤魔化せるとは思えず、「悪ぃ」と呟いて目を腕で覆う。もう少し、横になっている理由が欲しかった。
明日は24日。料理は各自持ち寄ることにしたのでほとんどやることはないのだが、ハッピーは会場作りに余念がない。普段やらない掃除を隅々まで丁寧に行い、どこから持ち込んだのか、間接照明まで用意していた。
瞼の裏では楽しそうな未来予想図が広がっている。しかしそこには、ルーシィが居ない。
ハッピーの羽音が近くなった。覗き込まれる気配を感じて、腕を下げる。

「ナツ、元気ないね」
「ん?別に、そんなことねぇぞ?オレは」

体調も良好。食欲もある。ナツは身体を起こした。

「元気ねぇの、ルーシィだろ」

ハッピーはゆらりと尻尾を振った。耳が少し、項垂れる。

「ねぇ、ナツ。ルーシィの好きな人、わかった?」
「…いや。言ってくんねぇし」
「訊いてないの?」
「ん…」

気にならないわけではない。だが、積極的に知りたいとも思えなかった。
ルーシィが恋をしていることについては、真実なのだろうと思う。それでも、ナツはどこか納得し切れていなかった。嘘とまではいかないが、勘違いだとか、夢だとか。今ならまだ、そんな決着がつくのではないかと思っていた。
しかし相手を知ってしまえば、一気に現実味を帯びる。知っている人間なら、どう接したら良いのかわからなくなりそうだった。
ハッピーはソファの手すりに着地した。腰掛けて、ナツを見上げてくる。

「その人のこと、なんか言ってた?」
「んー…そいつが笑うだけで嬉しいんだってよ。でもなんであんな悲しい顔してんだろうな」
「笑ってくれない、てこと?」
「さあなぁ…ルーシィが笑えば、そいつも笑うかもしんねぇのにな」
「そうだね」

にゅるり、と水の中を泳ぐように、尻尾が揺れる。ハッピーはふと気付いたようにヒゲを動かした。

「ナツみたいにね」
「ん?」
「だってナツ、ルーシィが部屋にこもるようになってから、笑ってないよ」
「…?そうか?」
「あい」

言われてみれば、ここ数日心から楽しいと思った覚えがない。今日食べた物さえ満足に思い出すことが出来なかった。
心配しすぎだろうか。頭を掻くと、ハッピーが両手を口元に当てた。

「なんかナツ、ルーシィに恋患いみたい」
「おっ、オレがぁ?変なこと言うなよ」
「でも、好きでしょ?」
「そら、嫌いなわけねえだろ」

急に背中が痒くなる。ナツは服の上からそこを擦りながら、足をソファに上げた。膝を抱えて、丸くなる。

「そういうのは…誰が誰を好きなんて、オレには関係ねぇよ」

ルーシィのことはもちろん好きだ。しかし恋などという甘ったるい表現は頷けない。
恋だの愛だの考えずとも、他にたくさん楽しいことがある。遊んで騒いで暴れて、それで良い。

仲間達が居れば。

ナツは目を伏せた。ルーシィも居なくては、それは成り立たない。

「……ハッピーは、ホントにルーシィのこと応援してるか?」
「え?あい、してるよ」
「オレは…嫌だ。ルーシィがあんなんなってんの、嫌だ」
「……何かしてあげられること、無いのかな」

ハッピーの言葉が、ナツには苦しかった。相棒はどこまでもルーシィを支援するつもりらしい。自分とは違って。

好きな奴のことなんて忘れて欲しいと願っている、自分とは違って。

「明日はクリスマスイヴなのに…誘えなかったのかな」
「さあな……」

ルーシィの望みは、好きな奴と明日を幸せに過ごすことだろう。それはすなわち、ナツの望む明日は来ないということだ。

「それでも……笑ってんならマシか」
「ナツ?」

背もたれにかけていたマフラーを巻いて、ナツは立ち上がった。あと二時間ほどで今日が終わる。

「ルーシィんとこ、行ってくる」

ソファに心臓だけを置き忘れたかのように、胸に空洞が空いていた。






自分の願いよりもルーシィ優先。一応。


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