ルーシィは肩を小刻みに震わせている。押し殺したような泣き声は小さく、すぐにでも治まりそうではあった。
「泣くなよ」
これしか浮かばない。すると、金髪が、ぴく、と動いた。
反応があったことにほっとして、もう一度、強めに言ってみる。
「泣くな」
「……泣き止めば良いの?」
「え?」
「あんたは、あたしが泣き止めばそれで良いの?」
「……それで良い、てわけじゃねえけど…それが良い…」
鼓動が強くなる。ルーシィの声はもう涙に濡れていない。今度は尋問するかのような口調だった。
肝が冷える。しどろもどろな中、一つの答えを見付けて、ナツは言った。
「ルーシィは笑ってる方が良い」
「笑ってれば良いの?それを言うために追いかけてきたの?」
「え?いあ……」
どうだっただろうか。元気になって欲しいとは思っていたが、具体的に何かを言うために来たつもりはなかった。
ルーシィはナツを睨み上げて、なおも捲し立てた。
「あたしは笑ってれば良いの?いつも変わらないでにこにこしてれば良いの?その辺の花みたいに、人形みたいに、笑顔でそこに居れば良いの?そうよね、さっきも『まだ』って言ってたもんね!まだ元に戻んないのか、って言ってたもんね!」
そんなことは言っていない。それに冬だから花は咲いていない。
反論するよりも先に、ナツは呆気に取られた。
「…何、怒ってんだ?」
「っ……!」
ひぅ、とルーシィの喉が鳴った。驚いたように目が見開かれるが、傷付いた表情を隠すには至らない。ナツは失敗を悟って血の気が引いた。
「あっ、えっ…悪い」
「……ううん、ナツは何も悪くないよ」
「お、オレ、そういうんじゃなくって」
「わかってる。慰めてくれてるんだよね」
「ありがとう」と呟いたルーシィは見たこともないほど無表情だった。能面を被ったようなそれに、『慰めたこと』自体が間違っていたのだと知れる。
しかしそれならば、正解は何なのか?
ナツはルーシィの手首を掴んだ。コートと手袋の間に指を滑り込ませて、来た道を戻る。
「え?どこ行くの?」
「ギルド、行こうぜ。んで、騒げば…忘れるだろ」
自分一人ではもうどうしようもない。仲間の力を借りなければ、解決できそうにない。ミラジェーンもリサーナも、カナ……は少し当てにならないが、少なくとも自分よりは恋愛に通じているはずだ。
この病気を早くなんとかしなくては、ルーシィが壊れてしまう。
しかし彼女はナツを逆に引っ張った。
「…ごめん」
「ルーシィ?」
「ごめん、あたし帰る」
「……」
「放して」
有無を言わせない語気と瞳に、ナツの手は彼女を解放した。追いかけることも出来ずに、背中が小さくなっても見送り続ける。
目の前を舞う粉雪が、ルーシィを覆い隠した。