ルーシィは翌日、何事もなかったかのようにギルドに現れた。ナツとハッピーが居るテーブルの横を、つかつかと歩いていく。

「おはよう」
「お、おう、ルーシィ」
「おはー」

挨拶を交わしただけで、彼女はカウンター席の真ん中に座ってしまった。何かが変わっているようにも見えない。服装も髪型も、いつも通りのルーシィだった。
しかしナツの目は確実に吸い寄せられていた。コートを脱ぐ仕草をじっと見つめてから、どうして見ているのかと自問自答して――やっと、自分が彼女を待っていたことに気付く。
ナツは奥歯で舌を噛んだ。すぐにでも駆け寄って、話しかければ良かった。腰は重くなってしまっていて、まだ数十秒だと言うのにぴくりとも動かない。

「…ぅ」
「どうかした?」
「いあ…」

この感覚を、ナツは知っている。緊張だ。ただ、その理由はわからなかった。
24日、彼女は家に来ない。それだけのこと。断られたのは確かに予想外だし残念だが、ギルドの仲間達全員が来るわけでもない。彼女の選択を強制するわけにもいかない。
もう、これに関してルーシィに言うべきことはなかった。それならば、取り立てて用は無い。こっちもいつも通り接するだけ。それなのに、緊張するはずはない。
もやもやとはするが、彼は気のせいだと頭を振った。それと同時に、ハッピーが首を傾げる。

「ねえナツ。ルーシィ、なんかおかしくない?」
「え?」

言われてみれば、ほんの少し肩が下がっている。首は項垂れ気味で、今の動きは、

「あ、ほら。溜め息吐いたよ」
「…だな」

考えを、ハッピーが肯定する。ルーシィが小さく見えた。
ナツは目を細めた。
昨日も来てすぐ居なくなって、そのまま戻ってこなかった。何かあったのか、それともあの時点ですでに調子が悪かったのかもしれない。

もしかしたら、虫の居所が悪かったのか。
それで、24日の件も断ったのだとしたら。

「ちょっと訊いてくる」
「あい」

彼女の機嫌が良くなれば、もう一度考えてくれるかもしれない。ナツはハッピーをその場に残して、ルーシィに近付いた。

「ルーシィ」
「……何?」

素っ気無い。こちらを向こうともしていない。
怒っているのか、と訊こうとして、ナツは口を噤んだ。横に座ってみると、随分と焦燥して見える。
確信がずどん、とナツに降ってきた。何か嫌なことがあって、それで気分が落ち込んでいる。一瞬頭の中にルーシィの部屋に仕掛けておいた数種の悪戯が過ぎるが、まさかそれくらいでこうなるとも思えない。違う理由だ。
ルーシィは息を静かに長く吐き出した。普通の呼吸と混じったそれも、ナツの耳ならばわかる。

「どした?なんか溜め息吐いて」
「んー?…なんでもない」
「なんでもないって顔じゃねぇだろ」

怒っているのであれば話は簡単だが、沈んでいるのなら心配になってくる。誰かに何かされたのであれば、相手をぶん殴ることだって吝かではない。
ナツはカウンターの中に居たミラジェーンに目配せした。
聞き出すのを手伝ってくれ、というつもりだったのだが、彼女は小さく頷いてカウンターを出て行ってしまった。二人きりにされて、仕方なくもう一度口を開く。






まず『怒ってるんじゃ』と考えるナツは叱られることに慣れ過ぎている。


次へ 戻る
main
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -