「具合でも悪いのか?」
「ううん、別に。なんでもないったら」
「…オレには言えねぇのか?」

拗ねたような声が出て、ナツはぎくりとした。自分が思っているよりもずっと、断られたのが堪えているらしい。彼女が作る壁に敏感になっていた。

「あ、いあ、言いたくねえんなら良いけど」

声音が更にいじける。聴覚を刺激する自分の声に恥ずかしくなって、ナツはマフラーの端でカウンターテーブルを叩いた。
ルーシィの金髪が揺れる。やっとこっちを向いてくれたかと思って見やると、彼女は困ったような表情をしていた。瞳に、罪悪感に似た何かが見える。

「ナツに話しても仕方ないの」
「わかんねえだろ」

話してくれそうな雰囲気を感じ取って、ナツはスツールをルーシィに寄せた。肩を当てて、待つ。
どんなことでも力になりたい。その思いが伝わったか、彼女は落ち着かなげに身体を揺すった。

「っ…こ、恋患い、よ」
「…は?お前、ルーシィだよな?」
「どういう意味よ?」
「いあ……」

コイワズライ。どう解釈しても、一つにしか辿りつけない。
これはどう考えても自分が役に立てる分野ではない。ルーシィが言う『話しても仕方ない』は正しかった。
しかし聞き出した以上、何かアドバイスなりコメントなりしなくてはならない。ナツは頭を掻いた。テーブルの木目を三回撫でるように目で追ってから、顔を上げる。

「えーと、……げ、元気出せよ。そんなのその、えっと…ハッピーだってそうだし?」
「……そうね」

ルーシィは今度はわかりやすく溜め息を落とした。その背中を軽く二度叩いて、ナツは逃げた。これ以上、何を言えば良いのかわからない。脳みそを引っくり返しても、彼女の望むことは引き出せそうになかった。
テーブルで彼を待っていたハッピーが尻尾を揺らした。

「ルーシィ、どうだった?」
「恋患いだとよ」
「ええ!?誰に!?」
「誰…あ、そっか。相手が居んのか」

そんな当たり前のことにも思考が働かない。同じチームで色気がなくて、いつも自分と同じように過ごしているルーシィが恋などと、あまりにも現実味がなかった。

それでも、彼女自身が言ったのだ。

不自然に近いスツールをそのままに、ルーシィは動いていない。戻ってきたミラジェーンが湯気の立った飲み物を彼女の前に出した。ナツの耳に届く優しい嘘――『オーダー間違っちゃった、あげるわ』。

「ナツ?」
「んー…。んん…」

なんであんな辛そうなんだ。なんか嫌な奴なのか。
そんなの。

やめちまえば良いのに――。

「ルーシィが恋、かぁ。上手くいくと良いね」
「え?なんで?」

真逆の言葉に、ナツは目を瞬かせた。しかしすぐに、自分が間違っていると気付いて息を飲む。

「あ、いあ…そうだよ、な」

仲間の不幸を望むなど、有り得ない。ぺし、と額を叩いて、ナツは自身も「上手くいくと良いな」と繰り返した。






恋をすると他人の恋も応援したくなる。


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