自分に嘘吐くのもわからないって思い込むのも、もう限界。あたしはナツが好き。大好き。
いつも一緒だし、楽しいし。そりゃムードとかは全く無いけど、現状は悪くないはずでしょ。友達以上恋人未満みたいなの、いい加減にどうにかしたいって思うじゃない。
一年で一番それっぽいイベント。女の子から勇気出すって、なんか悔しいけど。でもそれで、一歩でも二歩でも進めるなら。
進められるんなら。

――って、やっぱり、止めとけば良かったな。





WE WISH YOU A MERRY CHRISTMAS








ギルドの看板に、昨日降った雪が積もっている。しかし今日はよく晴れていた。
そこかしこの石や花壇にあるのと同じように表面が少し固くなっているだろうそれを見上げてから、ナツはギルドの入り口に踏み込んだ。木の床が軋むのと同時に、ハッピーの小さな足音がリズムを刻み始める。
酒場のテーブルはまばらに埋まっている。ルーシィはまだ居ない。
さらりと確認して、ナツはカウンターに向かった。足元を付いてきた相棒はふわりと翼を生やして、一足先にそこへ到着する。

「おはよー、ミラ、リサーナ」
「おはよう、ハッピー。ナツ」
「おはよ」
「おっす」

銀髪の姉妹は仲良く並んでグラスを磨いていた。足の細いワイン用のそれらは、ずらりと二人の前に整列している。
毎年恒例の喧嘩祭――もとい、クリスマスパーティの準備だろう。もう一週間を切っていた。

「すげえ量。忙しそうだな」
「ふふ、まだ先だけどね」

ミラジェーンは「楽しみなのよ」と微笑んだ。隣で、リサーナがグラスを一つ、ナツに向かって傾ける。

「磨き終わるまで、乱闘しないでね」
「へいへい」

ナツは暴れなければここに居ても大丈夫だろうと、スツールに腰掛けた。

「今年も25日の昼からだよな?」
「そうよ。空けておいてね」
「おう、仕事入れないようにしとく」

そういえばルーシィは知っているのだろうか。今日にでも言っておいた方が良いかもしれない。
そろそろ来るかと入り口を見やると、視界の端でリサーナが呆れたように笑った。

「仕事って。それ以外の用事ないの?」
「ん?それ以外って?」

彼女はにんまりと口角を上げた。

「クリスマスだよ?また予定なし?」
「あ?」

ようやく、言いたいことがわかった。面倒くさい話題だ。
ナツは顎を引いた。

「そーゆーお前はあんのかよ」
「セクハラはダメよ、ナツ」
「違ぇだろ!?つかそれならリサーナが先に言ってきたんじゃねえか!」

ミラジェーンに身を乗り出して、ナツはリサーナを指差した。しかし指された彼女は素知らぬ顔で、彼の後ろに手を振った。

「おはよ、グレイ」
「おう、おはようさん」

グレイはカウンターに並んだグラスを見て目を眇めた。

「クリスマスか…」
「なんか嫌そうだな」
「そういうわけでもねえけど」
「ジュビアとはどこか行かないの?」
「なんでだよ。別に…」
「う?」

後頭部に何かが刺さったように感じて、上体がよろめく。そっと振り向いてみると、やはり柱の陰に噂のジュビアが居た。
彼女は絵に描いたようにもじもじして、手を伸ばしては引っ込めるを繰り返していた。その間も凄まじいオーラを飛ばしてくる。
ナツは自分がこういったことに鈍いことは自覚していた。その自分にわかるのだから、よほどのことだろう。沈鬱な表情で焦点の合わない目を虚空に向けているグレイの足を、爪先でちょい、と押す。

「お前、これでプレッシャー感じねえの?あ、でもパーティあんだから、それじゃダメなのか?」
「普通クリスマスデートって言ったら24日のイヴでしょ」

リサーナが指を振る。グレイは大きく息を吐いた。






予定がホワイトクリスマス。


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