しぶしぶ、といった雰囲気を出したものの、ルーシィの声は甘くなった。
『何か食べたいものある?』
「ルーシィが作ったものならなんでも」
『な、なに言ってんのっ』
人を介してなにイチャついてんだ、コイツら。
仲が良いのは周知の事実だが、その会話をじっくり聞くのは初めてだった。いつだったかグレイが『首を絞めたくなる』と称していたが、まさにその通りだとウォーレンは納得した。
これで付き合ってないっつうんだから。
ナツがルーシィを特別に想っているのは、もう確定なのだろう。本人ははっきり口にすることはないが、仲間という隠れ蓑からは手も足もはみ出し過ぎている。
ルーシィの方も同じ空気を纏っているものの、彼女はナツよりもずっと戸惑っているように見えた。しかしそれでも、無意識にか彼との距離は近い。
周りからするともどかしいことこの上ないのだが、恋人という概念がすっぽり抜け落ちているようにも思うこの二人、付き合うという手順を踏むかどうかさえ怪しい。
ナツが本を片手で弄りながら、思い付いたように声を上げた。
「そだ、今日暇だし泊まってくな」
『はあ!?また!?』
またって言った?
どうせこの二人のことだから雑魚寝以外の何物でもないのだろうが、聞いてはいけない話を盗み聞きしているような気になってきた。それとなくナツに視線を送るも、彼は気付いた様子もなく会話を続けていく。
「良いじゃねぇか」
『もう、そろそろ泊まり賃貰おっかな』
「身体で払うって」
『んー、仕方ないわね』
「えええ!?」
思わず口を――念を挟んでしまった。聞き流すには爆弾すぎる。
「お、お前ら、そういう関係だったのか!?」
ナツとルーシィは確かに一見べたべたしているが、その触れ合いには色気が全く感じられない。だからこそ、二人は見ていてじれったかったのだ。まさかそんなことになっているとは思ってもみなかった。
一拍の沈黙後、ルーシィが慌てた声で喚いた。
『ちっ、違うわよ!?料理とか、お風呂沸かすとか、そういうの!薪!火種!それだけ!』
「なんか傷付くんだけど」
目の前でナツがしょんぼりとしている。
ルーシィは弁解に夢中で聞いてはいないようだった。
『ハッピーも居るからね!?』
「あ、今日ハッピーいねえぞ。ウェンディ達と仕事行った」
『じゃあダメ!』
「じゃあって」
ナツが眉を下げた。
「お前、オレのことハッピーのおまけだと思ってたのか?」
『そっ、そうじゃないけど。常識的に考えてダメでしょ』
「オレ的に考えてオッケー」
『無理!』
「なんでだよ?」
『あんた男でしょ!女の子の部屋に泊まるとか、あり得ないからね!?』
「はあ?何言ってんだ。お前、ルーシィだろ」
『あたしは女の子じゃないとでも!?』
「オレは誰だよ」
『ナツ』
「だろ?じゃあ良いじゃねえか」
『はい?』
「オレなら良いだろ?」
『ま、まあ、あんたなら警戒なんてするだけ無駄だろうけど』
「…そういう意味じゃねえよ」
酷いな。
男として同情する。顔に出たか、ナツが目を据わらせた。