もしもしおでんわ





「あ」

目の前に座っていたナツが何かに気付いたような声を上げた。軽快に立ち上がって、ととっ、とカウンターに向かう。そして行ったと思ったらすぐにすたすたと戻ってきた。
ウォーレンは彼の一連の行動に首を傾げた。

「どうしたんだ?」
「ん、ルーシィのだ」

ナツは言って、一冊の本を振った。桃色のカバーがされていて、タイトルはわからない。
ナツが名前を出した彼女が確かにそこに座っていたのを思い出して、ウォーレンは「ああ」と気の無い返事をした。

「どうせお前、ルーシィんち行くんだろ。ついでに持ってってやれよ」

ナツは同じチームのルーシィの家に入り浸っている。実際は毎日というわけでもないのだろうが、ウォーレンからはそう見えていた。きっとギルドの仲間達全員がそう思っているだろう、と彼は確信している。

「あー…」

ナツは少し考えるような仕草をした。

「今日は行かないつもりだったからなぁ…何も言っておかなかったんだよな」
「いつもそうなんだろ?勝手に入ってくるって、ルーシィ愚痴ってたぞ」
「そうだけど…今日はなぁ」

何が問題なのか、ナツは眉間に皺を寄せて唸った。

「ルーシィ、買い物してから帰るって言ってたんだよ」
「じゃあ今のうちなんだろ」

家主が帰るより先に家に居る――それもまた、仲間内では有名な話だ。
ウォーレンがやれやれ、と肩を竦めると、ナツは首を振った。

「いあ、今行くとな…かと言って追いかけると本返して終わりだろうし…」
「ん?」

ナツにしては難しそうな顔をしている。ウォーレンが訝って眉を寄せると、ナツはこちらを見てはっとしたような顔をした。

「そだ。ウォーレン、ルーシィに念話送ってくれよ」
「あ?」
「頼む」

ぱしん、と両手が本を挟む。
身体によく馴染んだ魔法を使うことは、大した手間ではない――ウォーレンはぴ、と指を額に当てた。ルーシィを思い描いて、魔力を解放する。

「ルーシィ」
『え?あれ、ウォーレン?』

彼女からの応答はすぐにあった。頭の中に快活な声が聴こえてくる。

『何?』
「ナツがよ、なんかルーシィに言いたいことがあるって」
『ナツが?』

ウォーレンはナツに目配せした。彼はぽん、と肩に手を乗せてくる。

「ルーシィ?」
『何、ナツ』
「今買い物してんだよな?」
『そうよー、今日の夕飯』
「オレの分も頼むな」
『なんで!?』

こういうことか。

ウォーレンはふう、と息を吐いた。先回りすると飯がない――そんな理由だったらしい。
ナツはにやりと笑った。

「なんで、なんて言って良いのか?」
『へ?』
「ここに人質…じゃねえな、モノジチがある」
『え、何?何のこと?』
「ピンクのカバー付き」
『あ、あれ!?嘘、あたし、忘れてった?』
「無事に返して欲しくば飯を用意せよ」
『くっ…』

ルーシィは小さく呻いたが、諦めたようにはぁ、と息を吐き出した。






便利ウォーレン。


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